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175.女子高生(おっさん)とコミケ



 真っ青な高い空と、ラピ●タでもありそうな入道雲が──夏の暑さをそのまま映し出しているような晴天の下。


 遂にオタク達の祭典──『コミックマーケット』が開催され、ここ東京国際展示は世界で一番暑い場所となっている。現実的な温度の意味で。

 右を見ても左を見ても、黒Tシャツかチェックシャツ二択の服装のオタク達がその熱気をより一層高めていた。体から湯気を発生させてオタク雲を創造させているという……悪魔的な災害という意味で。


 ライブ会場の実況レポートに似通っているが──あちらは世界で一番熱い場所であり、観客達が盛り上げて熱を高めているという良い例えとして使用される。

 対してこちらは、まるで地獄の入り口という悪い例え方である。


 そんな地獄に……コミケ童貞&処女の俺達隠キャ軍団が遂に初参戦を果たした。


 早朝から待ち合わせていたケン達は既に、夏の暑さにより死にかけていた。

 夏なのにみんなして真っ黒の変な英字Tシャツと長袖のチェックシャツ、長ズボンなんて履いてくるから当然の結果である。

 ちなみにおっさんは──彼女ができてピクニックに行ったらして欲しい格好ナンバーワンである白いワンピースと麦わら帽子だ。


〈な……なぁ、あの天使……小説家の……〉

〈どぅおわぁ~、ま、間違いない! 阿修凪ちゃんだ! カメラカメラ!〉


 そんな蟻の軍団の中に甘い砂糖を落とすみたいな愚挙を犯したおっさんは……早速、遠巻きにカメコ軍団に囲まれていた。

 夏祭りに引き続き、またも本来のイベントよりも行列を作る有り様である。


「おいっ、アシュナはコスプレ参加者じゃないんだから勝手に撮るんじゃねぇ!」

「そうでござる! 皆、アシュナ殿を囲んで守るでござるよ!」


 そんなわけで、ケン達に四方を囲まれながらの会場への移動はとても暑苦しかったが……おっさんが原因なので仕方あるまい。


「え、お前らアシュナちゃんの何? 騎士(ナイト)気取りかよワロタ」


 そんな様子を見た──この場に似つかわしくないDQN集団がこちらへ近寄ってきた。

 派手なオレンジ系統の茶髪、十字架のアクセ、ゴツい指輪……こいつらも夏だというのに革ジャンみたいなの着ている。

 間違いなく──いきりオタク集団……陽になりたい陰の成れ果て──今の時代風に言えば『キョロ充』というやつだ。


「き……気取りではないでごじゃる! 我らはアシュナ殿の親衛隊であり、アシュナ殿を崇拝せし信奉者であり──アシュナ殿の友人である!」

「ごじゃるっ、ワロス。お前らみたいなオタクの相手なんかアシュナちゃんがするはずねーじゃん!」

「そーそー、どーせ漫画が趣味とか言ったらお前らみたいなのが群がってきちゃったから仕方なく相手してるだけだろ」

「こんなあからさまなオタクに付きまとわれてカワイソーアシュナちゃん、ねぇ、今から俺らと一緒に回らない? こんなんと一緒だとイメージダウンになっちゃうよ?」


 いきりオタク集団たちに絡まれて……ケン達は顔に影を落とす。

 コクウさんがいれば直ぐに片付いたのだが……ケン達が『今日は我等がアシュナ殿をお守りする』と言って聞かなかったので、今日だけは休んでもらっているのだった。


(間が悪いな……あれ? いつの間にか偽400億の偽煉獄さんもいないし……しかし、こいつら……好き勝手言いやがって……)


 俺が原因で起きた事態だし、何とかしなければと前に出ようとした時──みんなに一斉に手で制された。

 そして、彼等は果敢に足を踏み出した。


「──アシュナちゃんを……馬鹿にするな!!」


 意外にも、最初に声を張り上げたのは……一番小柄で内気なイオリだった。前世でもこんなに大声を張った彼を見た事はない──イオリに続き、いつも不真面目でエロ猿で今までいいところなんて一つも無かったタケルも怒りの表情で叫ぶ。


「アシュナはそんな女じゃねえんだよ! なにも知らねぇてめぇらが好き勝手にほざくな!」

「アシュナ殿はいつも──我等みたいなものにも対等に、優しく、差別せずに接してくれたでござる! 我等がいくらバカにされようと構わぬが……アシュナ殿をバカにするような発言だけは絶対に許さぬ!!」


 (アシュナ)の前に立ちはだかるみんなの姿は、まさに親衛隊そのものだった。

 おっさんと同士であったはずの彼等は……いつの間にかこんなにも成長していたんだ。いや……俺が気づかなかっただけで、こいつらは最初からやる時はやる奴等だったんだ。


 阿修凪ちゃんの感情だろうか──そんな彼等に不覚にもときめいてしまった俺を尻目に……いきりオタク達は少し戸惑いを見せてたじろいだが、それでも往生際悪く、諦めなかった。


「──はっ、オタクがなに喚いてんだよワロス。言っとくけど俺ら空手習ってっからお前らなんぞに──」

「空手か!! イイね!! 筋肉を見せてもらっていいかな!?」


 いつの間にか、煉獄さんの偽物がいきりオタク達の後ろにいて……しつこく筋肉を見せろと食い下がった。

 いきりオタク達はタンクトップでこれでもかと筋肉を見せつける筋肉男の出現に、一斉に怯んだ。

 まぁ、筋肉が無くても……こんな狂人に絡まれたら俺だって逃げ出すけど。


「おや? その割には筋肉量が少ないぞ? きちんと学んでいるのかい?!」

「──しつけぇんだよなんなんだてめぇっ!!」


 しかし、それでも撤退しないいきりオタク達は食い下がり、やがて激昂し、ユウタに殴りかかる──



「──ぶっ!!」



──刹那。


 もう我慢できなかった俺の平手が、いきりオタクの頬を捉え、炸裂した。

 カウンター気味ではいったため、衝撃は思いの外に大きく、いきりオタクは横倒しになった。


「しつこいのはお前だよ。言っとくけど正当防衛だからね。まぁ、そっちが何もしなくてもビンタしてたけど。私、ウィル・●ミスさん派だから」


 わけのわからない未来の話をされたからか──錯乱している様子のいきりオタクに構わず、ゴミを見る眼でそう言って、胸ぐらを掴む。


「彼等は私の大切な仲間……私も彼等を傷つけたり馬鹿にしたりする奴は許さない。イメージダウン? 知ったことか、したいならネガキャンでも誹謗中傷でも何でも勝手にすればいい──私はそんなの気にしない。イキるのはいいけど周りに迷惑かけたりするのは恥ずかしいからやめな、自称空手家さん」


 茫然自失となるいきりオタク達を無視して会場に向かおうとすると……その光景を見ていた野次馬達から称賛の声と拍手喝采が挙がった。

 そして、オタク女子の集団に声をかけられた。


「あ……あのっ! 凄く格好良かったですっ!」

「あ……ありがとう、うひひ……」

「アシュナさんの企業ブース、あとで絶対行きますっ!」


……企業ブース?

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