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174.女子高生(おっさん)と陽女子達と祭りと花火と③


「──わぁ~っ…………!」


 続々と咲き乱れる夜の造花を瞳に映し──喋ることが大好きな三人も(しば)し言葉を失っていた。


「船から見るの初めてだけど………すごいねっ!花火がすぐそこだよっ!!」

「本当だね……すごい迫力……」

「わたしも初めてだよ~、アシュナちゃんのおかげだね」


 船室の窓から花火を望む浴衣姿の女子高生4名。

 花火なぞよりも、この光景の方がずっと価値があるような気がするのは間違いではないだろう。

 花火を『花』、連なるおっぱいを『団子』と置き換えれば……なるほど、『花より団子』とはよく言ったものである。

 浴衣姿なのでおっぱいやお尻や太ももは堪能できないが、代わりに髪結い姿により必然と露出するうなじがおっさんを興奮させている。


『花火より 尊み秀吉 うなじかな』


 思わず一句詠んでしまった。

 うむ、やはり花火などどうでも良いな。

 そんな風流に浸っていると──脳内に通信が入った。


──『どうでも良いな、じゃないですよ……ちゃんと見ましょうよ花火……』

(おっさんにとって花火なぞ、知らない間に終わってるものに過ぎない。だったら脳内にいつまでも記憶されるうなじの方が大切に決まってるだろう)

──『決まってないですよ……それより、いいんですか? 本当に言わなくて』

(何を?)


──『はぐらかさないで下さい、おじさんが……【元の世界に帰るつもりだってこと】を、です』


 阿修凪ちゃんの語気が少し強まった。

 そう決めてから──キヨちゃんと阿修凪ちゃん、母さんには事前に話をしたのだが……彼女だけは納得していなかった。そのせいもあるのかもしれない。


(話すって……元々タイムリープしてきた事実をヒナ達は知らないんだからそんな必要ないでしょうに……この世界が在るがままの──元の世界に戻るだけなんだから)

──『…………私は、納得できてませんし……どうしてそんな急に、そんな大事なこと一人で決めちゃうんですか……』

(いいじゃないか、そんな事……それよりも、阿修凪ちゃんがこれから彼女らと一緒に歩く事になるんだからきちんと把握しといてヒナヒナ達の好みやらなんやらを。女の子同士の付き合いはそーゆーの忘れたりすると非常に面倒な事になるとおっさんは学んだ)

──『………………』


 阿修凪ちゃんはそれきり黙ってしまった。

『内』にいる彼女の心情は読み取れないが、女の子の気持ちに疎いおっさんでも……彼女の困惑や焦り、悲しみ、怒りなどの負の感情を手に取るように感じる。


 すると、そんな感情が伝播したのか……今度はそういった機微に敏感なヒナが心配そうな表情をこちらに向ける。


「……アシュナ、なんか様子が変だけど……大丈夫?」

「……うん、大丈夫だよ。ありがとね、ヒナ──思えば最初に声をかけてくれたのはヒナだったよね……本当、感謝してる」

「………え? え? やめてよアシュナ……そんな最期みたいに……………えっ? いなくなったりしないよねアシュナ!?」


 いらんことを言ってしまったか──だけど、これだけは言わずにはいられなかった。

 僅かに漏れてしまったであろう寂しい気持ちを機敏に察知したヒナの不安が余計に増して、泣きそうな顔に変化する。

 そして、その不安を否定して欲しいと主張するかのようにおっさんに抱きついてきた。


 鼻先にうなじがもろに来た。

 そこから漂う香りは、もうなんか最高だった。


「……大丈夫、阿修凪はずっと一緒にいるよ。約束したじゃん、卒業旅行行こうって」

「………ぅん」

「これからも、私を宜しくね」

「……あはは、なにそれ……勿論だよアシュナ。卒業したってずーっと一緒だからっ」


 大丈夫、【阿修凪】は消えたりしないから。

 おっさんがいなくなった後でも、ずっと──と自分に言い聞かせて、俺は興味が無かった花火を瞳に焼きつける。






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