172.女子高生(おっさん)と陽女子達と祭りと花火と
「──すみませーん、そちらへ並んでくださーい!」
「はい! そこ押さないで!!」
今日は地元で有名な花火大会の日。
約3万発もの色とりどりの華が夜空を彩る、地元でも屈指のイベント。
海の上に打ち上がる花火が水面に映り、人々の喝采が波を揺らす──全国規模で見ても、その迫力はトップクラスと言えるだろう。
市外からも続々と人が集まるからか、当日の明朝には港付近には規制線が張られ……駅前からはずらっとテキ屋が並ぶ。
夕暮れ時ともなると身動きすら難しいほどに、老若男女幼児からオネエまで、性別や年齢を問わない長蛇の列が出来上がっていた。
俺に。
「みんな~、花火会場はあっちだよ~」
「これじゃいつまでたってもたどり着かないよー」
そう、今日はヒナヒナ達との約束の日。
地元駅で待ち合わせをして、花火会場最寄りの隣駅に降り立ったまではいいものの……目論見が甘かった。
まるで『三國無双』の雑魚敵の如く、俺に人がわらわらと集まってきてしまったのだ。
『花火を見ながらワンチャン俺の花びらも見れたらいいな』とでも思っているのだろうか──『た~まや~、ならぬ、ま~んや~』ってバカっ。
とにかくそんなわけで、人々は祭りそっちのけでこちらへ群がっている状況だった。
『せっかくのお祭りなんだから浴衣着ていきなさい』と母に勧められ、慣れない浴衣姿になったのはいいが……浴衣にサングラスやマスクは合わないだろう──と、してこなかったのが敗因だ。
「みんなごめん、今からでも変装してくるから……ちょっと待ってて」
「いいよアシュナ、アシュナは悪くないんだからそのままでいて」
「そ~だよ~、浴衣姿のアシュナちゃん滅多に見られないし~、それにサングラスかけたらなんか変だよ~」
「そうそう、変装なんかしないでありのままで楽しもうよ!」
ヒナヒナ達はそう言ってくれるが……そうは言ってもこれでは祭りを楽しむどころではない。
なんとかしないとと画策していると──遠くからサイレンの音が聞こえてきた。
警察車両と機動隊だ。
そして、中から見覚えのある女性が颯爽と降りてきた。女性は拡声器を使って、この人だかりへと勧告する。
[はい、そこの人だかり。立ち止まらないで歩いてください。そちらの美少女に何かありましたら……あなた達全員もれなく処刑します]
物騒な台詞を大音量で告げるは──めらぎお抱えの女刑事【神ノ宮】さんだった。
神ノ宮さんは素早く機動隊に指示を出し、あっという間に人だかりを捌いた。機動隊の人達は花火会場までの要所に配置され……更には人だかりを作らないように俺達の動きに合わせてくれるらしい。まるで要人扱いだ。
「さぁ、貴女は何も気にせずに祭りを楽しんでください」
「──はいっ、ありがとうございます神美さん」
神美さんにお礼にセクハラさせて、ようやく俺達の祭りはスタートした。




