171.女子高生(おっさん)と母②
──詳細全てを語るには時間はいくらあっても足りなかった。
まるで何十年ぶりかに再会して時間を取り戻す母娘みたいに、絶え間なく、満遍なく──俺と母は語り尽くした。
自分でも気づかなかったが、もしかしたら心の何処かに真実を洗いざらいぶち撒けたいという隠れた欲求があったのかもしれない。
「──そう、大変だったのね」
時折相づちを打ちながら、母は話す必要もないような下らない愚痴でも静かに聞いてくれた。違う世界の未来のこと、そこでの生活、突然のタイムリープ……父や妹がこの場に来たら、アニメやゲームの話をしていると勘違いしてもしょうがないような夢物語でも、母は茶化す事なく耳を傾けてくれる──母なる海、母なる大地、母なる地球……全てを受け入れるものの例え全てに母の冠がつくのも納得のいく話だ。
この空間にはもはや着飾った女子は存在せず──俺もいつのまにか溜まっていたものをぶち撒けるありのままの中年になっていた。
「ん、まぁ……こっちに来てからはそんなに大変ではないし……むしろ毎日楽しいというか、こんなに簡単でいいの? って戸惑ってるくらいだよ」
「そう、楽しんでるのなら何よりよ」
「……でも、最近は阿修凪ちゃんの精神を乗っ取るかたちになっちゃったのに罪悪感を覚えてて……」
「けど阿修凪──精神体の方ね、阿修凪もそれで良いと言っているんでしょ? あの娘は昔っから引っ込み思案でマイナス思考なのに二次元勝りの超美少女に産んでしまって心配していたのよ……合成素材がよかったのかしら?」
美少女に産んでしまって心配していたなんてパワーワード初めて聞いたし、ソシャゲ脳に侵されている母に少し恐怖しながら……この世界に実際には存在しない中年の息子相手に親身になってくれるのには感謝の念しかなかった。
「とにかく、あなたはもう分別ある大人なんだから……もうそれ以上はとやかくは言わないわ。あとは貴方が【阿修凪】の未来をどうしたいのか──迷っているのなら私に相談しなさい。違う世界の私は貴方をどう思っていたのかわからないけど……この私は、貴方の味方だし……母親なんだから。阿修羅、阿修凪を救けてくれて、ありがとう」
そういうのズルい……破天荒な母の口から出るとは思えなかった不意討ちの言葉に泣きそうになった。
唯一タイムリープに気付いた存在が母さんで本当に良かった……たとえ全体攻撃が二回攻撃じゃなくても、やはり母親は最強の存在だと改めて理解させられた夜だった。
ようやく迷いが晴れたよ──母さん。
「……それにしても、父さんお風呂から出てくるの遅いね。風呂上がりは必ずリビングに来るのに……」
「あ、貴方との話を邪魔されたくなくて洗濯機で扉を塞いでたの忘れてたわ。大丈夫、洗濯機作動させたから防音も完璧よ」
こっちは大丈夫だけど、それ、父さんは大丈夫なのかな?? かな??
同時に母の怖さも再認識させられた真夏の夜だった。




