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162.女子高生(おっさん)と波澄阿修凪


〈自室〉


 ──自身と向き合う。

 字面にするととても格好良く感じるが、俺の場合は文字通り……自分の中に目覚めた新たな人格──もとい、この身体の元の持ち主【波澄阿修凪】ちゃんとの会話である。


 隣でカザカちゃんが寝ているため、起こさないよう心の中だけで会話ができるのは非常に(はかど)る。

 みんな寝静まった深夜帯……カーテン越しに漏れる月灯りと、脳内に心地良く響く女子高生の声がおっさんを神秘的な空間へと(いざな)う。まるで安眠ボイスCDだ。


 改めて……はじめまして阿修凪ちゃん。


──『あ、はい。はじめまして……阿修羅さん……』──


 彼女はとても丁寧に、けれども人見知りしてるかのような小さな声でおっさんの挨拶に返答する。

 とても真面目で思慮深く、奥手で恥ずかしがり屋──彼女の印象はそんな感じだ……そして、きっとそれは的を射ているだろう。


──『あぅぅ……全然そんないい子じゃないです……』──


 考えが筒抜けなので、彼女はモノローグに照れる。

 なんて可愛らしい……妄想でもなんでもなく、女子高生が脳内に住んでいるという現実に、おっさんの股関は熱くなった。


──『こかっ……あのっ、私もイメージを共有してるのであまりえっちなこと考えるのは……』──


 ごめん、できるだけ前向きな検討をするよう善処します。


──『………それで、ですね……おじさん。これまでの一年間……意識はあったのでおじさんの行動を全部見てきたんですけど……』──


 本当にごめん、マジでごめん。


──『……? どうして謝るんですか?』──


 いや……だって、謝るような事しかしてないから……


──『いいえ……逆なんです。お礼が言いたかったんです……ずっと。確かに際どい場面も何度かありましたけど……』──


 ……お礼を言われるようなことをした覚えの方がまったく無いんだけど……


──『ぅうん、おじさんはずっと私がしたくてもできなかった事を簡単に叶えてくれたんです』──


 できなかったこと?


──『……私、こんな顔で産まれてきたことがずっと嫌でした……』


 お嬢さん、それは贅沢な悩みというもので……イヤミにしか聞こえないんだけど……あ、続けてどーぞ。


──『……周りからは可愛いだとか綺麗だとかずっと言われ続けて……私は全然そんなんじゃないのに……まるで「綺麗な人なんだから綺麗な生き方しかしない」みたいな勝手な羨望を押し付けられて……周囲の評価に縛られてるみたいで…………全然、自由じゃありませんでした』──


……………


──『「あの子は可愛いから私なんかが友達になっちゃダメだ」とか「高嶺の花すぎて近寄り難い」とか周りは勝手に私を避けていきました。おじさんの評価の通り……私、人見知りなので自分から声もかけられなくて……友達ができた事はありませんでした。勇気の無い私が悪いんですけど……もうちょっと普通の顔だったら違ったのかな──なんて毎日思ってました』──


 ……それで、アニメやゲームの世界にはまって中二病を発症した?


──『どうしてわかるんですかっ!? 凄いですおじさんっ!』──


 『自分』のことだからね。おっさんの過去もそうだったから……やっぱり、どんな世界でも『自分』はそうそう変わらないもんだ。


──『──高校では変わろうと中二病にかこつけて男の子っぽく振る舞ったりしたんですけど……それでも【氷の女帝】なんてかっこいい名称つけられただけで結局なにも変わりませんでした』──


 ごめん、それをかっこいいと思えるセンスだけは全然違うようだ。


──『それをおじさんが簡単に打ち破ってくれたんです……破天荒だしえっちだしすぐ寝ようとするし他人との距離感狂ってるしセクハラするし(いびき)うるさいし男の子の前で裸になろうとかして倫理観が欠如してるとしか思えないですけど……』──


 罵詈雑言!? 呪詛みたいな羅列がとめどなく溢れてきてるよ!? 本当に恨んでない?!


──『……最初の頃は本当にわけがわからなくて嫌でした。でも今は……おじさんのことが…………おじさんが来てくれて良かった──って思うようになりました。だから……これからも私の身体、使って下さい。けど、たまには私にも使わせてくださいね……? できれば週一くらいで……』──


 そんなシフト表みたいな感じで本当にいいの……?元々キミの人生なのに……


──『だって、今いる友達はおじさんの事が好きで、今いる場所はおじさんが築いたものじゃないですか。きっと私に戻ったらみんな離れていくに決まってますし……小説なんか私書けませんし……』──


 う~ん……このネガティブガール……おっさんの学生(いんキャ)時代の女性verなんだから納得といえば納得なんだけど……きっと「そんな事ないよ」なんて上から目線の同情にしか聞こえないだろう。『自分』の事だからよくわかる。


──『いいんです本当に……素敵な学生生活を私も共有できてるんですから……私じゃ絶対できなかった……夢みたいな生活を……』──


 そんな共有アカウントみたいな……うーん……キヨちゃんに元に戻してもらうにしても、確かに今じゃない方が良さそうだ。


──『()()()()()()()()()()()()()()()()()()』──


…………


──『だからもう……アシュナはおじさんのものなんです』──


 …………もっかいそのセリフ言って貰っていいかな?


──『……なんかえっちな感じがするのでイヤです……それとっ……あのっ………も、もう1つ言いたいことが……』──


 うん、何でも言って。


 しかし、ふと時計を見ると時刻は22時を回ろうとしていた。

 脳内でいい感じに会話を繰り広げていたから段々と眠気が襲ってきた……まったく寝る前の妄想が捗ってしょうがない…………


──『夏休みなのに寝るの早すぎますよ!? これから重要なこと話すんですから聞いて下さいっ』──


 仕方ない、おっさんも寝ながら女子高生の精神体と話すなんて滅多になくて楽しいから付き合おう。


 と、いうわけで就寝時脳内活劇はちょっとえっちな後半戦へと突入する。


──『しませっ………えーと、しないはずです……』──


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