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157.女子高生(おっさん)と七海八天とタイムリープ問題FINAL


 その時、俺に言葉を紡がせないようにか……ヤソラもマイクを握り、口を開いた。


「……あはは、みんな、ごめんね? 実は……この勝負に負けたらアタシ達は──」

「──ちょっと待って!!」


 何を言うか──まったく思いついてはいないけど……それでもここは待ったをかけなきゃならない。


 みんな驚き、こちらを見る。

 観客も、研修生達も……注目されるのがとても苦手なおっさんで、心臓ばくばくで手も脚も震えてるけど……唯一、下だけを見ているヤソラのためにここは言わなきゃならない。


「ヤソラ、本当にこれでやめるの!? ずっとブブカにかけてたんじゃないの!?」

「……当然でしょ……でも、そういう勝負じゃない……あたしにはアイドルになる素質が無かった……それだけよ」

「アイドルに素質や才能なんかいらないよ!()()()思い出して!!」

「……………あんたに……あんたに何がわかんのよっ!!」

「わかるんだよっ!!!」


 叫ぶヤソラ、怒鳴るおっさん。

 観客はざわつき、研修生達はどうしたらいいかわからず狼狽えているけど……もう俺達の視界には入らない。まるで寸劇の様相──舞台上、いや、今、この空間にはもう二人しか存在しない。


「私もね、ずっと小説家になりたかった。つまらなかった私の人生を救ってくれたみたいに……同じように感じてる人を私も救いたい──って。でも書いても書いてもなかなか評価されなくて……いつからかこう思うようになった。『一人が見てたって意味が無い、万人に受け入れられるものを書かなくちゃ』って」

「………あんた、もう小説家じゃない……」

「ずっとずっと昔の話だよ。でね、そしたらどうなったと思う? たった数十人かもしれない──だけど読んでくれてた人達も離れていっちゃったの。それはそうだよね。そう意気込んでから書いた小説は、全然私の書きたいものなんかじゃなかったから」

「…………」

「……小説家とアイドルって、似てると思わない?顔も知らない人が……自分の産み出す作品を楽しみにしてくれてる。冥利に尽きるよね? それが一人でも……百人でも関係ないってくらい」


 ヤソラは、その言葉にようやくこちらを向いた。

 それでも構わず、俺は続ける。


「凄いよね、今日この場所に来た人だけでも1()4()()()の人達がヤソラを応援してくれてるんだよ。世界中の人がブブカの存在を知れば……1400万人がヤソラに投票してくれるんだよ?」

「……そんな数字…………机上の空論じゃない……」

「そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()。考えたってさ。応援してくれる……今、確かにここにいる人達にそんな言葉……聞かせちゃ駄目だよ。みんなを笑顔にするってあの時言ってたじゃんか」

「………あ……」


 投票結果を見て、俺は安堵した。

 必死に『観客はわかってるから大丈夫』と自分に言い聞かせていたのは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という恐れからだった。観客全員が俺に投票してしまう、という最低の事態を予感してたからだ。


 しかし、ヤソラも研修生達も全員が票を得た。

 自分で言うのもなんだけど……こんなチートキャラでサキュバスみたいな存在を相手にして、それでも揺るがないファンを獲得しているのだ。


 だったら大丈夫、未来を知ってるおっさんが言っても結果論でしかないけど──ブブカはトップアイドルへと駆け上がれる。


「……アシュナ……アタシ……………ぅぅ…………」

「私は、ずっとヤソラの友達で……一生、アイドルとしてのヤソラのファンでもあるから……だから、トップアイドルになったらまたゲストで呼んでよ。絶対行くから」

「…………うんっ……絶対、いつか、トップアイドルになって……あんたの書いた小説の宣伝してあげるから」

「うん、待ってる」


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--


〈ライブ終了後 楽屋〉


 ライブ終わり、お互いにサインを交換しつつ……研修生達の汗の匂いを思い切り吸い込んでいると、楽屋にオータムPがやって来た。


「ヤソラ、やっと本物のアイドルへと足を踏み出せたようだね」

「オータムP………最初からそのつもりで………?」

「ヤソラは意気込みすぎて上しか見てない嫌いがあったからね、ブブカは上を目指すだけのチームじゃない。この投票も自分のファンが確実に存在していて、そのファン達にどう向き合うかを確認させるものなんだよ」


 未来で賛否両論を巻き起こすこのシステムにそんな意図があったなんて……つまり、(アシュナ)は初めからヤソラに一皮剥かせるための当て馬だったわけだ。


 まぁ、これで未来は元通りだし……おっさんはアイドルデビューしなくていいし、研修生達の裸も見れたし、万々歳ってことで。


「アシュナちゃーん、記念に一緒に写真いい?」

「あ、うん。喜んで──」


 と、研修生達と記念撮影をしようとしたら……ヤソラに腕を掴まれた。

 なにかおかしい、笑いながらもなんか怒ってるみたいだし……眼のハイライトが消えている。


「……アンタはアタシだけを見てればいいんだから……そうでしょ……? 本当のアンタを知ってるのはアタシだけだし、アタシもアンタしかもう見ないからね? 浮気しちゃ……駄目なんだから……フフ……」


 あれれ~? ツンデレだったはずのヤソラちゃんが、未来と違ってヤンデレに進化してるよ~?





書き貯め期間にして少しお休みします。

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