136.LEVEL UPした女子高生(おっさん)
〈朝 通学路〉
「──アシュナちゃんちょっと話があるんだけど…………あ? なんだてめえ?」
「貴様らこそ何者だ? 見たことない顔だが……お嬢に馴れ馴れしく近付くな」
修学旅行も終わり、翌週──コクウさんと共に登校していると……待ち伏せしていた知らない坊主頭に馴れ馴れしく声をかけられた。当然のようにコクウさんは俺を庇って一触即発のムードになる。
「お嬢、知り合いですか?」
「ううん、知らないけど……」
「アシュナちゃん! 俺らだよ! 前に巽の手下だった……」
「………………あ、ごめん。知り合いだった……」
そいつらは以前同じクラスだったマサオ君を苛めていた(巽の指示で)部下ABCだった。長らく登場していないからすっかり忘れてたけど……苛めの責任を取って自主退学したのちに『俺専属の便利屋になる』と宣言したので人手が欲しい時になにかと利用させてもらってる暇人達だ。
【詐欺騒動】以来、特に必要もなかったので全く連絡してなかったからか自分達から接触してきやがった。
「それで話って?」
「あぁ、ある筋からの情報で【龍道】の野郎がここらのヤクザ達とつるみ始めてなんか企んでるっぽいんだよ……逆恨みでアシュナちゃんに報復でもするんじゃねぇかって……」
「……へぇ……」
血相を変えて話す部下達とは対称的に、俺は至って冷静に相槌を打つ。【龍道】とは以前同クラスだった県議会議員の息子であり……七光り満点のDQNだ。部下と同じく退学になり、更正の一途を辿っていると聞いていたが……やはり人の性根は早々変わらないという事らしい。
すると、噂をすればというかなんというか……謀ったかのようなタイミングで通りの向こう側からぞろぞろとチンピラみたいな集団がやって来た。
「──よぉ、アシュナ……久しぶりだな。お前らも元気そうじゃねぇか……」
中央にいて声をかけてきたのは勿論、【龍道】だった。イカついサングラスに変わらない金髪ツーブロック……まさにDQN中のDQN。寝とらせ相手にさせたら天下一品だろう、それくらいしか需要ないけど。
「おお~、あれが噂のアシュナちゃんかー。マジでいい女じゃん」
「見てるだけでムラムラしてくるぜ……」
ヤクザらしきチンピラ達がこちらを思いきり視姦して下卑た言葉を放つ。部下【ABC】は俺を守らんと間に入るが多勢に無勢……明らかに尻込みしていた。
「ち……ちきしょう……マジで来やがった……」
「やべぇよあいつらマジもんだ……どうする……?」
「やるしかねぇだろ! アシュナちゃん! 俺らが相手すっからアシュナちゃんは逃げっ──」
部下達が懸命に俺を逃がしてくれようとしているけど……今のおっさんにとって、これは取るに足らない出来事なので動じなかった。
「お嬢、あれらは敵ですか?」
「うん」
「承知しました、片付けます」
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通学路に燦々たる光景が拡がる──勿論、伸されたチンピラ達の事を指している。
沖縄の時と同じく、無双状態のコクウさんにちぎっては投げられるチンピラ達……騒ぎを聞き付けて駆けつけてきたテンマとめらぎ──その配下の警察や機動隊や明らかに裏社会の者も駆けつけ、更にはかかってきたケータイからカザカちゃんの指示が飛ぶ。
『アシュナ嬢、沖縄のヤクザとテレビ電話繋げた』
『大丈夫か阿修凪! そいつらぁ聞いた事もねぇ地方の小さぇ組のただのチンピラだなんてことはねぇ、あ、ミシェルも話してぇみたいだから出すぜ』
『HEY、ハニー。東京にいる米軍にも連絡とったからすぐ向かわせるよ!』
「うん、ごめん。ありがたいけどそこまでしなくてもいいかな……それじゃあ、また……」
明らかにオーバーキルすぎる事態に発展しそうなので急いで通話を切った。
かつての脅威がまるで相手にならない──二年の修行を経て集合した麦●ら海賊団のような確実なレベルアップを遂げているおっさん(周囲が)だった。




