133.女子高生(おっさん)の修学旅行~③日目『女と男5』~
〈PM17:00 〈沖縄米軍軍基地〉〉
「oh……very beautiful……(なんて美しさだ)」
「so cool……」
「てめぇら……姐さんに手ぇ出しやがったらただじゃおかねえからなコラ!」
ざわつく米軍基地内──右手に見えますのは屈強なアメリカ軍人達、左手に見えますのはガラの悪いヤクザ集団。
そして……それらに挟まれ中央にいますはご存知『パーフェクトおじさんガール』こと波澄阿修凪。
「hey、キミがMrsアシュナだね。ミシェルのイウのトーリに神にヒトシイ美しさだ……ボクもイトシイのワイフがいなければクドイテいたかもしれないね」
「ハニー、これが私のパピー」
「ど……どうも……」
ダンディという言葉が良く似合うのに日本語がたどたどしいミシェルちゃんの父親を紹介される。この渋いアメリカンが米軍基地のトップ……まさか、ただの中年だったおっさんがこんな大物と相対するとは夢にも思わなかった。
「阿修凪、これで全員らしい」
「ハニー、始めて」
──さて、何故に現在こんな状況になっているのかだが……それを今から説明しなければならない。イカつい野郎共に同人誌みたいにえっちな事をされる前に俺は口を開いた。
「えっと……皆さん、【転生九萬宮】の祠を見つけて引き上げるのに力を貸してほしいんです……」
「「「…………」」」
遥か昔……昭和初期の時代に沖縄へやって来たアメリカ軍と【琉宮會】の初代は何度も戦争じみた争いで戦ってきたらしい。
のちに和解したようだが……様々な事件により日米の友好は沖縄内では長く続かず──再び両者が敵対するまで時間はかからなかった。表面化してはいないが争いの火種は今でも数多く残っているみたいだ。
争いが再び始まるまでの間──大親分が言うにはおおよそ1960年代ごろ……米軍と琉宮會は共同で『ある作業』を進めようとしていた。
それは大地震により姿を消したとされる【転生九萬宮】の復活。
沖縄開闢神話として広く祀られた神の社を協力して蘇えらせることで磐石の和平を築こうとしていた。だけど先に述べた通りに破綻し……その計画は頓挫していた。
つまり、今日ここへ出向いたのはその計画を再開させるため──有り体に言えば、おっさんは長きに渡る因縁を孕む両者の架け橋としてここに立っているのだ。
大親分はさすがに退院できないので、代理としての役目も兼ねている。ガワは女子高生で中身はただのおっさんの俺が生涯する事はなかったであろう役割に足がどちゃくそ震える。
「琉宮會の女島だ、俺からも頼む。人手の都合はこちらでつけるし報酬も払う」
「お願いだパピー、ハニーには世話になった。力を貸してほしい、時間がないんだ」
「「「…………」」」
マジメさんとミシェルちゃんが両脇からフォローしてくれるが……軍人達はみな一様に難しい表情をしている。当然だ、こんな女子高生の頼みで軍が動く筈がない……海中を捜索するとなれば人手どころか軍の所有する潜水艦やらなんやらも動かさなければならないし、海上保安庁やらなんやらとかとの様々な連携や許可がいるかもしれない。ただのおっさんには想像もできないような制約やしがらみがあるだろう。
「………キミ達は何を言ってるんだ……?」
案の定、ミシェルちゃんのお父さんは怒ったような顔をしていた。
やばい、軍人達に同人誌されると思ったその時──ミシェルちゃんが何か気付いたような表情をして英語で話し始めた。
「She says that she wants you to help look for the small shrine in question (彼女は例の祠を探すのを手伝ってほしいと言ってるんだ)」
「oh、テンセイマングーのことね、OKOK!」
「ごめん……パピーは日本語苦手なんだ……」
本当に何言ってるのかわからなかったのかよ、と、そして軽っ! と、そして在日米軍総司令が日本語わかんないでいいの!? と怒涛に突っ込みそうになったが通じなさそうなので止めた。
「あの……本当にいいんですか……?」
「オフコース、キミみたいな可憐なレディの前には僕らのイサカイなんてワリバシについているツマヨウジみたいなもの……ツマ(い)らないってことさHAHAHA!」
ちょっと何言ってるかわからないけど、とにかくそんなこんなでいとも簡単に──ヤクザと米軍による神様の社捜索が行われることになった。