132.女子高生(おっさん)の修学旅行~③日目『女と男4』~
〈PM15:00 病室〉
それぞれがそれぞれの状況を説明し、話はエピローグへと向かうかのように一気に終息の様相を見せた。
「し……信じらんねぇ……お前、女だったのか……なんで男の振りなんか……」
「てめぇの脳はカニ味噌かこのボケっ! 誰のためにやった事だと……!」
覇王色の覇気を醸し出すヤクザの大親分は息子の鈍さ加減にやきもきしたのか、懐にしまってあった酒瓶っぽいのを飲み出した。
あんた病人でここ病院だよね……? と思ったけどヤクザだから自由にさせてあげた。怖いから。
「……いいんですdaddy……俺……いいえ、私は結局逃げていただけなんです……子供の頃に打ち明けていれば良かったのに……拒絶されるのが恐かったから言い訳して『男だ』なんて誤魔化して……」
「……俺とミシェル嬢ちゃんの親父は長ぇ付き合いで色々あったが……それを子供にゃあ継がせまいと距離を取って黙ってたのも仇になっちまったな……まさか、この馬鹿が未だに気づいていなかったとは……苦労かけちまったな……おい、てめぇ。女だと知ってもミシェル嬢ちゃんにてめぇの妙ちきりんな発作は起きんのか?」
「………あれ、そーいやぁなんとも……」
「んなもんなんだよ、要はてめぇの心構え次第だ。女だ男だ言う前に一人の人間として見りゃあ人類なんざ皆同じだ馬鹿野郎」
いや、言いたいことはわかるけど流石に暴論じゃないですかね?とは言わなかった。怖いから。
「こんなんじゃまだまだ死ねねぇな……おい、けじめつけてミシェル嬢ちゃんの花嫁姿をさっさと拝ませろ。それまでは三代目は継がせねぇ」
「「はっ……花嫁っ……!?」」
親分の言葉に、二人は同時に赤くなって中学生みたいなリアクションをする。(なに初々しいラブコメ見せつけてんだ幸せになって死ねこの野郎)と、今度は表情に滲ませて訴えかけた。
まぁ……なにはともあれ──これで沖縄で起きた予想外のイベントは二人が結ばれて大団円という形を迎えるんだから巻き込まれたおっさんにとってもなによりだ。
「改めてアシュナの嬢ちゃん……君には本当に迷惑かけた、それにこいつらがこうやって落ち着いたのも君のおかげだ。ありがとう」
「い……いえ、私は別になにも……」
「……ハニーと巡り合えたからこうなれたんだ、それにさっきのハニーの言葉が無かったら私はまた誤魔化していたかもしれない……つまりハニーのおかげさ」
「すっかり修学旅行の邪魔しちまったな……この詫びと礼は必ず返すぜ。そーいやぁ……昨日聞いてた【娚人伝説】の地には行ってみたのか?」
「う……うん、けど何も残ってなくて……あはは、祠とか見たかったんだけど……ね……」
神様には会えたけど……などと、言えるわけはなく──苦笑いして誤魔化しながら俺は昨夜に話した内容を思い出す。
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-昨夜 〈AM1:30 【転生九萬宮】〉-
「──【ニライカナイ】?」
「そう、耳にしたこと位はあるかの。神々の住まう地……つまりはワシのホームなんじゃが、ふとしたきっかけでそこへ通ずる門にたどり着けなくなってしまっての……そこへ戻ることさえできれば、ワシの力も元通りというわけじゃ」
キヨちゃんの神様としての力を取り戻せば、アシュナとして生きていけると聞いた俺はすぐにその方法を聞いた。
「それはどこにあるの?」
「それがわかったら苦労せんわい、ちょっと別世界で7000年ほど遊んどったら影も形もなくなってしもうた……小さな祠じゃ。破壊はできないようにしておるから恐らくは海底に沈んでしもうたか……」
「え、神様なんだからそれくらいどうにかできないんですか……?」
「言ったじゃろ、今のワシは普通の人間に近い。つまりこの幼児の体のままにそこへ行かなければならんなじゃよ。なんとかその祠を探しだして──海底に沈んでおるのなら到達手段を見つけてほしい」
いやいや、一介の女子高生に出来る範疇を越えてるでしょう。大体、沖縄にはあと2日しかいないのに無理に決まってる。
「そのためのお前さんじゃ、世界一と言っても過言ではない……人を動かすための求心力と影響力を持ったお主なら可能じゃろ」
「いや過言だよ!? そんな事できるわけ──」
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-現在 〈PM15:15 病院〉-
「──アシュナの嬢ちゃんが言ってるのはもしかして【転生九萬宮】のことか?」
「……え?」
眠気が復活し、虚ろな気分で昨夜の内容を振り返っていると……大親分がまさかのワードを口にした。
「そ……そうですけど……」
「………アシュナの嬢ちゃん、学生旅行はいつまでだい?」
「え……もう明日には帰りますが……」
「………ミシェル嬢ちゃん、親父に口聞いてもらえるかい? たぶん俺から取り次いでもはね除けられるだろうからよ……」
「……パピーに……? butダディとパピーは……」
「頼む、馬鹿息子が世話んなった礼をアシュナの嬢ちゃんに返さねぇといけねぇ」
「……ハニーの為なんですね? OK、頼んでみるよ」
大親父は凄く真面目な雰囲気でミシェルちゃんに言った。確かミシェルちゃんの父さんはアメリカ軍沖縄基地の総司令だとか……ただならぬ雰囲気を感じたのでマジメさんに理由を聞いてみた。
「オヤジ達は昔っから争ってきたんだよ……沖縄が地元のヤクザ者と駐留するアメリカ軍のトップだから……まぁ昔から色々あってな。犬猿の仲っつーか……」
そんな敵対する者同士が、急に何を話すのか……異様な空気感と眠気に包まれたおっさんは成り行きをただただ見守るしかなかった。一体何が始まるんです……?




