111.女子高生(おっさん)の困惑~新たな出会い⑤~【未来のトップアイドル3】
〈校舎隅の女子トイレ〉
「はぁ……で? アタシに何か用なの?」
ヤソラちゃんは最初こそ戸惑っていたものの……弁当を持ってここに入るのを見られ言い訳できないと思ったのか便座の蓋に座った。ぼっち飯を見られてのこの態度──さすが未来のトップアイドルと言わんばかりに堂々としている。
「ぅうん、話したかっただけ。人目のないところなら話してくれるかと思って」
「……あんな態度とられても近づいてくるなんて……やっぱり変わり者なのねアンタ」
「なんで私の事知ってるの?」
「有名人なんだから当然でしょ。むしろまだ一般人のアタシをアンタが知ってた事の方が驚きよ……どこで調べたの?」
「みら……ええっと…………」
未来で知ったとは言えず、言い淀んでいるとヤソラちゃんは訳知り顔で言った。
「隠さないでいいわよ、【オータムP】から聞いたんでしょ」
「……オータムP?」
「とぼけないで。オータム・モットーPとはもう会ったんでしょ?」
「オータムモットーさんに?! 会えるわけないじゃん!」
オータムモットーPとは昭和時代から名だたるアイドルをプロムデュースしてきた伝説的存在でありながらこれから始まるアイドル争乱時代をも創り出す──ONE ●IECEでいうゴールド・●ジャー的海賊王だ。未来でヤソラちゃんの所属するブブカ48もオータムPが手掛けているので彼女とは旧知でも不思議ではないが……そこに何故、俺の名が出てくるのかは甚だ疑問だ。
ヤソラちゃんは語る。
「アタシは12才の時からオータムPの下でアイドルとしての訓練を受けてきたの……そして遂に、アタシをセンターとしたアイドルグループが結成されるはずだった………けど! オータムさんは秋葉原でアンタを目にして以来! アンタを中心としたアイドルグループ計画を構想し始めたの! 予定ではもうすぐオーディションでメンバーを集めるはずだったのに……オータムさんはアンタのことで頭がいっぱいになって……計画は間延び……そこへアンタの本格的な小説家デビュー……今やどの業界もアンタの話題で持ちきりよ……だから! アンタよりアタシの方が人気を取れるってことをアタシはここで証明しなきゃいけないのよ!」
「………」
以前にめらぎと言った秋葉原……どうやらそこでの騒動は予想以上に各方面に影響を与えていたらしい。まさか有名アイドルプロムデューサーにまで目をつけられていたとは……と呑気に考えてる場合ではなかった。
(つまり……このままじゃおっさんの存在がネックになってブブカがデビューしないってこと!?)
これは『電車巫女男』以来の由々しき事態。このままではのちのアイドル争乱時代を牽引するトップアイドル達がアイドルとしてデビューしなくなってしまう上に、代わりにおっさんがオタク達と毎日握手をするはめになってしまう。
(冗談じゃない、おっさんは握手を求める側でsnsを監視される側じゃない……なんとかしないと……)
おっさんのサブクエストに歴史改変を阻止する新たなミッションが追加された。そんな都合はお構い無しといった感じに……メインクエスト【修学旅行】の日は容赦なく訪れる。