106.女子高生(おっさん)の困惑~新たな出会い③~【クラスメイト】
〈2年A組〉
「ねぇねぇアシュナちゃん、僕……教科書忘れちゃったから見せてほしいなー♪」
「う、うん」
最近、テンマ以外にもクラス内で俺に対してグイグイ来る系男子がいる。
前世も含めて初めて同クラスになり、隣の席になった【来栖亜璃修】という子だ。
名は体を表すというが、その通りに女の子みたいなつぶらな瞳と子犬のような笑顔と人懐っこさを併せ持つ男のこ。ショートウルフの黄色がかった栗毛色の髪がそれを更に際立たせ、男物の制服を着ているのが不自然なくらいの女顔。
「よく見えないなー♪ ねぇ、もっと近くに寄ってもいい?」
「う、うん……」
しかし、周囲の睨みを全く気にする事なく……挑発するように積極的に俺に接してくるその強気な性格が更にアンバランスさを醸し出している。
バトルもので言うならば、『可愛い顔して人を殺すことに躊躇いがなく、笑いながら暴力を行使するので悪の組織の中でも危ない奴とされるポジションにいるやつ』──そんなキャラだ。
それはさておき……彼とは一年の時も同クラスだった。にも関わらず──何故に今さらこんな顔に似合わない肉食っぷりを二年になって発揮し始めたのか……それは彼が病弱な体質であり、病気などでこれまで休みがちで彼が殆ど登校できていなかったのが理由だ。
それがどんなわけか、すっかり体の方は良くなった様子で何故か俺にすり寄ってくる。
その理由を彼は自ら話した。
「僕、病院でアシュナちゃんのサイトに載ってた小説をずっと読んでて……それで凄く勇気をもらったんだ。そしたら体も不思議と良くなってて……だから登校したらアシュナちゃんに尽くそうって決めてたんだー」
「そ……そうなんだ……ありがとう……」
おっさんが百万歩譲って唯一恋愛対象になりうる男……【男の娘】。
そんな男子が目の前に存在する、しかもアシュナの小説のファンで病弱体質で可愛い。これにはおっさんも初めて男子にきゅんですしちゃって、こんな照れた乙女みたいな反応になってしまうわけ…………ではなかった。
窓の外の木の上から、SPである黒雨がスナイパーライフルみたいなのを構え、鬼の形相でアリスを狙撃せんとしているからだ。
「アリス君……も、もうちょっと離れようか」
「えー、いいじゃんー。僕もっと近くに行きたいなー」
「おい貴様、アシュナから離れろ」
「アリス、どうやら地獄を見たいようだな……」
更にテンマや他の男子も我慢の限界を迎えた様子で俺たちを取り囲む、すると、応戦するかのようににアリス君は立ち上がった。
「前までの僕とは違うよー、今度は僕がアシュナちゃんを助ける番だ。アシュナちゃんの小説のおかげで背もいっぱい伸びたからね」
そう言って立ち上がったアリス君は、他の男子よりも大きく見えた。
と、いうか現実的にデカかった。推定身長はおおよそ180cm以上はあるだろう。おっさんが男の娘であるアリス君にときめかないのはこれが理由だった。俺の小説影響与えすぎ。
その後、戦場と化した教室からこっそり抜け出して女子達と戯れ、(やっぱり時代は百合だな)と改めて思うのだった。