87.女子高生(おっさん)の変わらない日常
テレビに予期せぬ出演を果たしたのちの翌週──初めての登校。
梅雨がもうすぐ始まることもあってか空模様はこれからの未来を暗示するかのような曇天。
不吉な予感を少しも抱いていない、と言えば嘘にはなるけど……それでも容赦なく現実はやってくる。
もしかしたら、いつも通りの高校生活はもうやってこないかもしれない。同校にTVデビューを果たした生徒がいるとなれば、きっと他クラスから人が群がり、みんな浮き足立つこと間違いないだろう。
(けど大丈夫、質疑応答の予行練習は済んだ。サインも練習した、なにがあっても堂々としていればいい)
不安な気持ちを掻き消すように、胸を張って道を闊歩する。
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〈2-A 教室〉
「アシュナー! テレビみたよーカッコよかったー! 出るんなら言ってくれればいいのに!」
「あー、うん。ごめん」
教室へ入ると早速テレビ効果が見てとれた。
まず最初に来たのはヒナヒナ達……まるで自分のことのように喜んではしゃいでくれるのは嬉しかった。色々聞かれると思い、心の中で準備していると……予想外のことが起きた。
「それよりさー、教科書忘れちゃって……アシュナ一緒に見せてくれないかなー?」
「……え?」
「ん? どうしたの?」
「ぅ……ぅうん、教科書だね。いいよ」
どうやらヒナヒナ達にとって、TV出演したことはあまり関心がないようだ。そうか、もしかしたらアシュナに対して気を遣ってくれているのかもしれない。アシュナのことだから騒ぎ立てられるのはきっと嫌だろう、と。
(もっとはしゃぎたいだろうに……なんて良い子たちなんだ)
すると、ヒナ達を皮切りにして続々と他生徒達が群がり、小説家デビューやTV出演をお祝いしてくれた。
「姐さん! マジで綺麗だったよ! 半端なかった!」
「アシュナちゃんおめでとうー! めっちゃ可愛かった!」
「TVに映ってもその美しさは変わらないな!」
「あ……ありがとう」
しかし、クラスメイト達は祝福だけして解散していった。
(あれ? それだけ? もっと聞きたいこととかないの?)と、疑問を抱く。
他クラスから『話題のアシュナ』を見に来るというシチュエーションもなく、学業風景はいつも通りだった。
「アシュナ殿、ついに念願の大々的なデビューを飾りましたな」
皆が閑散としたのち──ケンが話しかけてくる。他のみんなに『あれ? TV出演したんだけどもっとなにか質問とかないの?』などと聞くとイキッてるみたいで恥ずかしいので気心知れたケンに同じような意味の質問をすると意外な答えが返ってきた。
「──ふむ、アシュナ殿は入学時にもっと騒がれていたでござるからな。皆の中でTV出演など当然すぎて気に留めていないのかもしれないでござるよ」
「そうなの?」
「覚えてないでござるか? それはもう凄かったでござるよ、当分の間──一週間ほど授業にならず『アシュナ殿への質疑応答時間』という時間が設けられ、他クラスから怒涛の勢いで生徒達が押し寄せてきてたでござる」
「………」
どうやら、普段からアイドル扱いされているからかこんなのは皆にとって通常営業らしく……更には入学時のアシュナとの出会いの衝撃に比べれば取るに足らないことらしい。
ただ入学しただけでTV出演を果たすより大事になるってなんなの、と思いつつ……全く変わらなそうな学校生活に安心すると共に、陰キャでありながら注目の的になったおっさん憑依前の自分に同情を禁じえなかった。