第28話「温泉の後はコーヒー牛乳」
「ふぅ、気持ちよかったぁ」
先に温泉から上がった俺は着替えを済ませてアリナを待つ。
アリナも初めての温泉を満喫できているといいな。
そんなことを思いながら待っていると、すぐにアリナが出てきた。
「おかえり~」
「ただいまです~翔くぅ~ん」
なんだか様子がおかしい。
顔が赤くなっているし、少しふらついている。
「アリナ、大丈夫!?」
アリナを抱き寄せ、近くの椅子に座らせる。
これは、あれだ。
のぼせちゃったんだな、たぶん。
それにしても、アリナはのぼせたらこうなるのか。
なんか酒飲みすぎて酔ってる子みたいだ。
可愛いんだけど、流石に心配になるよ。
「はっ……! あれ……ここは……?」
「目が覚めた?」
「あ、翔くん。私は一体……」
「のぼせちゃってたみたいだね」
「ごめんなさい! 迷惑かけちゃって!」
「いや、全然大丈夫だよ。アリナが出てきてから5分くらいしか経ってないよ」
「あ、そうなんですか? それでも! 迷惑かけちゃったことには変わりないから……」
最初は驚いて心配したけど、わずか5分ほどでのぼせは収まってくれたようで本当に良かった。
まあ、今回が初めての温泉だったわけだし、仕方ないのかな。
次からはもう少し早めに出てきてもらうか、夏海を呼ぼう。
「立てそう?」
「はい、まだ少しだけふらつきますけど立てると思う」
「肩貸すよ」
「ありがとう」
のぼせは収まってもまだ少しだけふらつくようだったので俺は肩を貸した。
「次からはもう少し早めに出ようね」
「そうですね、気を付けます」
アリナは申し訳なさそうにシュンとした表情になっていた。
そんなアリナを見た俺は頭を軽く撫でた。
別に怒っていないよ、という意思表示だ。
「よし、それじゃあ定番のあれ、飲もうか」
「あれって?」
「コーヒー牛乳だよ」
「たしかに! 温泉の後はコーヒー牛乳を飲むのが常識って予習しました!」
常識ってわけではないと思うけど、まあ温泉の後はコーヒー牛乳を飲むのが最高ってのはあるよね。
銭湯の番台で瓶のコーヒー牛乳を2本購入し、1本はアリナに渡した。
「これがコーヒー牛乳!」
「あはは、さすがにコーヒー牛乳はみたことあるでしょ」
「瓶のコーヒー牛乳は初めてです!」
「そうなの? それじゃあ、良い思い出になるね」
俺とアリナは一緒にコーヒー牛乳を飲む。
ごくり、と冷えたコーヒー牛乳が喉を通った瞬間、体がリフレッシュしたような感覚になった。うん、最高。
隣を見ると、アリナは目をキラキラと輝かせながらコーヒー牛乳を見つめていた。
どうやら気に入ってくれたみたいだ。
「これ、凄いです」
「気に入った?」
「はい! 温泉の後のコーヒー牛乳がこんなに美味しいなんて知りませんでした! なんか体の疲労も一気にとれたような気分ですよ!」
「それは良かった。そんなに気に行ったなら定期的にここ、来ようか」
「いいんですか!?」
「もちろんだよ。俺も温泉と、温泉後のコーヒー牛乳が大好きだからね」
「温泉後のコーヒー牛乳と私だったらどっちが好きですか?」
突然アリナが怖い質問をしてきた。
おそらく冗談のつもりではあると思うけど。
え、冗談だよね。
ここでコーヒー牛乳って答えたら俺が終わってしまう気がした。
「も、もちろんアリナだよ」
「ふふっ、ありがとう。まあ、冗談で聞いたんですけどね」
「はは……そう、だよね」
アリナの怖い一面を見たような気がする。
これからも怒らせてはいけないな。
「それじゃあ、そろそろ帰りますか?」
「そうだね。でも、帰ってから何しようか」
「そうですね。翔くんとイチャイチャします!」
「えっ……!?」
「ふふっ、冗談ですよ」
冗談じゃなくてもいいのに、と心の中で呟いた。
まあ、アリナは冗談って言いながら実際は甘えてくれるんだろうなぁ。
冬休みが始まったのは良いけど、何をするか決めていないんだよね。
アリナと一緒に楽しめるようなことを色々やりたいとは思うけど、具体的に何をするか思いつかないな。
「アリナは何したい?」
「うーん、そうですね……あっ! そうだ!」
「お、なんか良いの思いついた?」
「私と翔くんのお父さんとお母さんにビデオメッセージ送りませんか?」
「ビデオメッセージか。たしかにいいかもね。本当なら一昨日に送った方が良かったんだろうけどね」
「ふふっ、たしかにクリスマスメッセージとして送ればよかったですね」
「まあ、とりあえず帰ってから2人で仲良く暮らしてますって内容の動画撮ってから送ろうか」
「はいっ! 両親にも私たちがラブラブだって知ってもらいます!」
え、もしかしてイチャついた状態でビデオメッセージを撮るの?
さすがに親に見られるのは恥ずかしいんだけど。
でも、アリナが楽しそうだし仕方ない。今回はアリナの望みを叶えるとしよう。
絶対に父さんには茶化されるのが目に見えてるけど。




