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第06話・葛城皇子(中大兄皇子)

 葛城皇子は舒明天皇と皇后宝皇女との間に生まれた長男である。

 二人の間の長男と言っても、父は母と結婚する前から何人かの妃を持っていたし、母は再婚だったから、葛城皇子には異父兄が一人、異母兄が一人いた。

 葛城皇子にとって父は遠い存在だった。

 物心ついた時には父は天皇となっていた。父に叱られたこともなければ、甘えたこともない。父である前に天皇だった。

 母の宮で生まれ、母が皇后となった後も父と一緒に住むことはなかった。

 母は父の正妃であったが、大兄皇子は葛城皇子ではなく、異母兄である古人皇子だった。古人皇子の母親は、大臣蘇我毛人の妹の蘇我法提郎女そがのほていのいらつめだったのだ。

 中には、皇后の息子である葛城皇子に気を使って二番目の大兄皇子という意味で「中大兄皇子なかのおおえのみこ」と呼ぶ者もいたけれど、父が自分の嫡男、大兄皇子として認めていたのは古人皇子だった。

 父と葛城皇子の間にはいつも古人皇子がいた。皇族が集まる公式な儀式でも、順番は古人皇子の次だった。父はいつも、年長である古人皇子を立てるようにと言っていた。母は皇后でありながら、古人皇子を生んだ蘇我法提郎女とほぼ同等の扱いを受けている。父はこの国の天皇なのに、なぜ両親は臣下に遠慮し気を使うのか。

「蘇我大臣の後押しがなければ天皇になれなかったのよ。仕方がないでしょう」

 母はあまり気にしていないようだった。

「私たちが今のような暮らしができるのも、すべて蘇我大臣のおかげなんだから、いいじゃない、それくらい」

 葛城皇子はそう言う母が、また何も言わぬ父がもどかしかった。そんな両親に、そんな世に、常に不満を抱いていた。

 

 葛城皇子は、十歳になった年、旻法師の学堂に通い儒学を学び始めた。

 旻法師の学堂では、葛城皇子のような青少年向けの授業の他に、大人を集めての講義や問答も行なっていた。

 皇族や貴族たちは、大陸の進んだ学問を学ぼうと、挙って学童に通った。

 葛城皇子が学堂に通い始めて一年ほど経ったある日、旻法師は言った。

「皇子はなかなか人と違った発想力をお持ちのようですね」

「学問には人それぞれの性格が反映されます。几帳面な人は几帳面な学問を、奔放な人は型に縛られない発想を生み出します。皇子は今までの誰とも、入鹿臣とも違う、独自の考えをするようですな」

「入鹿臣……、入鹿臣にも勉学を教えたことがあるのですか」

「ええ、もちろん。今も時々来られますよ」

「入鹿臣はどのような人ですか。次の大臣にふさわしい人物ですか」

「ええ、とても頭の良い方です。飲み込みが早く聡いことこの上ない。今まで私がお教えした方たちの中でも一、二を争うほどでしょう」

「入鹿臣よりも頭が良い方はいないのですか」

「そうですね、他には、中臣連鎌足様が秀でていました。場合によっては入鹿臣より優れているほど」

「中臣連鎌足? その者が入鹿臣より頭が良いと」

「頭が良い悪いは一面だけで判断できません。お二人とも違った良さがおありでした。もちろん、葛城皇子、貴方様もです」

 葛城皇子は、次の大臣になるであろう蘇我入鹿よりも頭が良い人間がいるということに驚いた。会ったこともない中臣連鎌足という男に心惹かれた。

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