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第37話・対立

 新政権でも玄理は重用され、国博士として政権を支える立場は変わらなかった。旻法師も同様である。左右大臣は穏健派で、内臣の中臣鎌足も思ったより悪い人物ではないようで、玄理はうまくやっていた。

 国内もこれといった争いもなく、玄理と旻法師、それに内臣中臣鎌足を中心に、八省百官の制度を整備していき、改新を進めていった。


 難波に住む玄理と飛鳥にいる橘王とは、年に一度の正月行事で顔を合わせた。遠く離れた席から玄理を見つけた橘王は優しく微笑み挨拶をする。玄理が出世したとはいえ相手は皇族、相変わらず遠い世界の人である。

 遣新羅使として新羅に渡って日本を留守にしていて橘王と会えなかった年もあったが、大派皇子の宴にも時々招待される。難波で仕事をしている玄理は毎回は出席できなくとも、言葉を交わせない正月より、間近で橘王との時を過ごせるその機会を、玄理は楽しみにしていた。


 しかし旻法師が案じていたように、平和な世は永くは続かなかった。

 ようやく新制度が世の中に浸透しつつある頃、高齢だった左大臣阿倍倉梯麻呂が病死すると、それを待っていたかのように右大臣蘇我倉山田石川麻呂が皇太子葛城皇子により謀反の罪で殺された。二人とも天皇の妃の父親であり、天皇が最も頼りにしていた側近である。天皇は一気に二人の腹心を失ったのだ。


「この数年の間に、謀反の嫌疑をかけられ殺された人間は、山背皇子、古人大兄、そして右大臣」

 難波の安曇寺の僧都となっていた旻法師は、玄理に言った。

「入鹿臣も同じようなものだ」

 玄理が頷いた。

「結局右大臣の無実は証明されましたが、右大臣は皇太子の妃のお父上。岳父の無実を信じず殺害するなど……。私は皇太子が恐ろしい」

 旻法師が抱いた恐怖心を、他の豪族も同様に抱いただろう。

 空いた左右大臣の席には以前から葛城皇子派だった巨勢臣こせのおみ、中臣鎌足の叔父の大伴連おおとものむらじがそれぞれ据えられた。葛城皇子はじわじわと天皇の有力な側近を排除していっているように見えた。


 その頃、たびたび新羅の侵略を受けている百済から、日本に援助の要請があった。天皇はその要請をのらりくらりとかわし具体的に何もしなかったのだが、親百済派の葛城皇子はその態度に苛立っていたように見えた。

 玄理は大陸情勢をずっと見てきた。巨大な隋国でさえ滅びたのだ。半島の三国の力関係も、いつどうなるかわからないと思っていた。どの国に対しても中立な立場で接するべきだと考えていた。


 ある日の会議で、左大臣の巨勢臣が新羅を攻めるべきだと天皇に進言した。

「新羅は百済との国境を侵害している様子、見過ごすわけにはいきません。新羅に兵を出すべきだと思います。今、新羅を叩いておかねば、今後、奴らはもっと増長しましょう」

「しかしのぉ、新羅と戦って我らに利は」

 天皇はそう言って、国博士の高向玄理を見た。

 会議に参加しているのは、天皇、皇太子、左右大臣と内臣、群卿、国博士の玄理である。

「新羅を討伐しようとしても、新羅は唐に援軍を求めましょう。昔のように易々と降伏するとは思えません。今、我が国は新羅、百済から朝貢を受ける立場にあります。新羅がこうして我が国に朝貢してきている以上、新羅と敵対するのは得策ではないと思います」

 玄理の言葉に巨勢臣が反論する。

「しかし、新羅をこのまま放置すれば、我が国のためになりません。今までも新羅は隙あらば我が国から掠め取ろうという態度でした。彼らは調子に乗り、いずれは我が国を軽んじ、唐国と共に我が国を属国と扱うようになりかねません」

「そういったことは外交努力で避けられると思います」

 玄理は負けていない。

「新羅に限らず、大陸や半島の国々と争うべきではないと、私は思います。この国はまだまだ大陸の国から学ばねばならないことがたくさんあります。まず唐国は、学問や文化、仏教、技術や物も全てにおいて日本より先に行っています。唐には我らが聞いたこともない大陸の国々から様々なことが入ってきているのです。半島の三国も唐から学んでいます。半島の国と争えば、半島経由で入ってくる唐の文化を学ぶことが困難となります。今すべきは争うことではなく、互いの利益になる交易を盛んにすることだと思います。新羅には勢いがあります。高句麗も強大な国ですし、半島の三国は牽制しあっています。我が国はそれを利用し、三国とうまくやっていったほうが良いと考えます」

「かつて半島にあった日本の直轄地であった任那加羅は、その昔、新羅に侵攻され奪われ、今は新羅領と百済領とに分割されています。任那を奪った新羅を信用してはいけないと、昔から言われていました。それに、唐国が、半島の三国を属国にした後に、我が国に手を出さないとは言い切れませんでしょう」

「ええ、ですが、可能性は低いと思います。唐にとっては陸続きの北の国のほうが脅威ですから。海を渡った我が国をわざわざ攻める余裕はないと思われますし、敵対するより、友好関係でいることを選ぶと思われます」

 天皇は満足そうに頷いた。

「我は、外征より今は国内を統一することが重要だと思っている。 民が新制度に戸惑っている時期に兵を召集するのは世に混乱を招く。律令と税制度を整備し国中に浸透させることが先決。隋はそのような時期に外征に力を入れすぎて滅びたのだと聞いている。国博士の言う通り、新羅がこうして我が国に朝貢してきている以上、情勢を見て、必要があればまた考えよう」

 玄理の目の端に、不機嫌そうに唇を歪める葛城皇子の姿が映った。

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