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第31話・請安の後継者

 桃の季節になっても橘王の桃見の宴は開かれなかった。服喪中なので宴のようなことは行わない旨の知らせが玄理の元へ届いた。白髪部皇子がいない今、もう皇族や貴族たちに気を遣う必要がなくなったのかもしれない。

 玄理は、今まで橘王との架け橋ともなっていた白髪部皇子がいないことで、もう自分は必要とされないのかと寂しく感じた。


 秋が訪れると、病を抱えていた請安の病状がいよいよ思わしくなくなった。

 見舞いに行った玄理に、請安は痩せ細った体を半分起こし、言った。

「欲しい本があったら持っていくがいい。形見分けだ」

 玄理が部屋を見回すと、見慣れた漢語の書物などが散らばっていた。特に欲しい本はなかったが、請安の形見のつもりで二、三冊を懐に入れた。

「先日も鎌子連に分けた。あの男、俺が書いた本を全部持っていきおった。まあ、あやつが俺の後継者となってくれるならそれでもいい」

 請安は土気色の顔に満更でもない笑みを浮かべた。

 別れ際に請安は玄理に言った。

「貴公は長生きしろ。長生きして本懐を遂げるのだ」

 そして秋の訪れと共に、請安の命は散った。

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