第28話・山背皇子の最期
生駒山の別荘では、山背皇子夫妻を筆頭に、息子とその家族たちが膝を寄せ合い、使いの下男の知らせを待っていた。
「弓削皇子はどうなっただろうか」
その時、弓削皇子と一緒に行った下男が戻ってきた。
「斑鳩寺の僧侶と話ができました。皆様、寺へ来られるように、とのことです」
「おお、そうか」
山背皇子は顔を輝かせた。
「斑鳩寺ならば食糧も寝床も不自由せずに済みますね、よかった」
山背皇子の横で、舂米皇女はようやく頬を緩めた。ここ数日間、小さい山荘で満足な寝具もなく、山で採った山菜や木の実で凌いでいた状態だったのだ。
「ならば、皆を集めよう。そなた、足労だが、今から日置皇子の宮へ行き、斑鳩寺へ集まるように言ってくれまいか」
山背皇子は下男に申し付け、室内にいる皆に向かって言った。
「我らも寺へ向かうとしよう。大人数で移動しては人目につく。暗くなってから出かけよう」
その昼過ぎ、山背皇子の弟、日置皇子とその家族が斑鳩寺の門に入ろうとした途端、何者かに取り囲まれ拘束された。
・ ・ ・
弓削皇子や日置皇子の死を知らない山背皇子らは、山荘で夕暮れ時を待っていた。
「では、私はこれから山背国へ行き協力を頼んでまいります」
日が西に傾きかけた頃、家令の三輪君が立ち上がった。
「うむ、よろしく頼む」
三輪君が生駒山の山中を歩いていると、ふと、向こうから音がする。
軍隊だ。
「いかん、大兄様にお知らせせねば」
そう思って三輪君が別荘に引き返そうと走り出すと、後ろから声がした。
「いたぞ。逆賊だ」
気付くと三輪君は地面に倒されていた。
「我々も、そろそろ行こうか」
山背皇子が皆に声をかけた。
「そうね、足元が明るいうちに出たほうがいいでしょう」
舂米皇女は女たちをまとめ、庭へ出た。
「お待ちください、何か物音がします」
先導していた下男が言った。
「獣かもしれないので見てきます」
そう言って門を出た下男が「ぎゃっ」と声を上げた。
「どうした」
山背皇子が外を見ると、喉元を矢で射抜かれた下男が倒れていた。
「敵か」
戸の陰に隠れようとした次の瞬間、山背皇子を目掛けて矢が降ってきた。




