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第19話・舂米皇女の説得
「私は隠居し出家しようと思う」
山背皇子が舂米皇女にそう告げたのは、厩戸皇子が崩御してちょうど二十年めの二月のことだった。
「もう天皇になることはないし、残りの人生は仏の教えを学び、父母の菩提を弔って生きたいと思う」
「何を言い出すのです。天皇にならずとも、政や人々のためになることはできまする。貴方は人望がおありです。貴方が何かしようとすれば皆、力になりましょう。この国がおかしな方向へ行こうとしているのを止められる力があるのは貴方だけなのですよ。それに、まだ息子たちがいます。先の田村皇子の時のように何があるかわかりませんでしょう。将来のためにも、常に上宮家が政の近くにいることを見せつけておかねばなりませぬ」
息もつかずに捲し立てる舂米皇女に、山背皇子は唖然とした。
「……そなたは、実に強い」
舂米皇女の説得に、山背皇子は仕方なく出家を思いとどまった。




