命のしくみ。
ギリギリで躱す漆黒の剣士のその右脇を切り裂き貫くマリアグランデ。
「どっせー!!」
貫いたローブごとそのまま真横に力任せに薙ぐスカーレット。
左手の掌を庇うように右脇に伸ばす漆黒の剣士。その手のひらにエネルギーを集めそのままマリアグランデのヤイバを掴んだ。
「くっ! 動かない!」
勇者は掴まれ完全に動きを止めたマリアグランデから手をはなし、そのまま後ろに飛ぶ。
剣士の動きは一瞬止まり、そして、左手で掴んだその剣を真横に投げ捨てた。
「まったく。それが理不尽だというのだ。母の形見の剣をそんな雑に扱いやがって」
「お前、とて、魔族の血を引いているのだろうに」
「何?」
「お前ら人族とて多かれ少なかれ魔族の血をひいているのだろうに、と言った」
「なんだと!? どういう事だ!」
「魔、とは真那の凝縮したもの。そもそもこの世界の表に溢れるものがマナ、裏にあるものが魔と呼ばれるが、それは元々は同じ神の氣だ」
剣士の剣が勇者に迫る。体捌きのみで躱すスカーレット。
「お前たちも感じているのだろう? この魔界に在る時の方が魔力が高まるのを。それはすなわちお前たちも魔、だという事なのだよ!」
「何を馬鹿な事を!」
「かつて、人々は魔を恐れた。確かに、凝縮した魔力は生き物の感情によって暴走する。恐怖や憎しみを増幅しその分力を増す。そういう性質のものだ。しかし!」
剣士が薙ぐ剣をバックステップで避け、そのまま反転し懐に潜り込む勇者。
剣士の右腕を取りそのまま投げ飛ばす。切り裂かれボロボロになっていたローブがその勢いではだけた。
空中で体勢を立て直し着地する剣士。
露になったその顔を見て、勇者は一瞬怯んだ。
「だからといって、魔力のある者を恐れこの地に追いやったのは人族だ。遥かな過去、人族は、魔力の在る、魔力の多い人間を同じ人でありながら魔族と呼びこの地に追いやったのだよ!」
鬼気迫る表情ではあったが、その顔は。
エレクレクス聖王国、第三王女アリシア。その人であった。
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命の誕生。その裏側を見ること、知ることは長い間タブーとされてきた。
グレートレイス、偉大なるその大霊に溶け混ざった魂は、人が人として産まれ出る時に再び個々の魂として生成される。
そこに人族や魔族の区別は無い。
魔とは真那の凝縮した結晶であり、魔族が人族に比較し魔力が多いのも、魂の中にその魔結晶を持つからでもあった。
アリシアの母、ローゼマリーは魔族出身だった。
もともと聖王国の王族はその聖魔法の能力に特化していたものの、その血が薄まるうちに魔力もまた薄まっていったのだった。
それに危惧したアントニヌスが市井で探し当てた高い魔力の持ち主ローゼマリー。
魔族であると言う事実を隠し暮らしていたローゼを見初め、側妃にと請うたのだ。
もちろん、ローゼマリーは全てを話し。アントニヌスはそれでも側にいて欲しいと願った。
戦争から帰り着いたアリシアは自身にも魔族の血が流れているという事実を母から聞く事となる。
そして。
聖王国に伝わる女神の伝説と共に、命の円環、魂の円環の真実を知った。
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その手にした大振りの剣、バスタードを勇者に向かって突き出したアリシア。
茫然と立ち尽くしていた勇者の喉元を切り裂くかと思われた瞬間、そこに黄金色に瞬くマリアグランデが現れた。
勇者が呼んだのでは無く。
マリアグランデが勇者を守ろうとして、アリシアにはそう見えた。
「このマリアグランデ、お前を守ろうとしているな」
宙に浮かぶ長剣と切り結ぶ。
三合ほど切り結び後退したアリシアを見て、スカーレットは急いで手を伸ばしマリアグランデを掴んだ。
「その剣はお前の母親だな。勇者スカーレット」
アリシアはそう言うと、手に持ったバスタードをおろした。




