クロム。
魔王クロムウェル。
彼女は、うん、彼女、クロムウェルは漆黒の衣装を纏い、背中にはコウモリの様な黒い羽根、その肩先には二つの盾が浮かぶ。
全体的に華奢で。とてもじゃ無いけれど戦闘向きには見えない。
でも。
クロムウェルは強かった。
といっても彼女はほとんど防御をしているだけで稀に反撃の業火を放つのみ。それも両肩の先に浮かぶ動く盾、ラウンドバインダーの自動反撃の様にも見える。
ひたすらに続く攻撃を躱すことなくいなし。そして防いで。
戦闘は一昼夜に及び続いた。
スカーレットたちの攻撃も決め手にかけ、あたしは皆を守る、だけ、に徹した。
そして、魔王クロムウェルに疲労の色が見えて来たその時。
彼女の周囲が高熱源体に包まれ、その熱の塊が一瞬にして破裂した。
あたりは強烈な爆風にみまわれ。ちょうど魔王に襲い掛かろうとしていた勇者たち三人ともが虚をつかれたまま弾かれ吹っ飛ばされた。
そして。その衝撃が彼らの意識を刈り取ったのを感じたあたしは魔王のそのすぐ側まで空間転移する。
そう。このタイミングをずっと図っていた。彼女に近づくことのできるこの瞬間を。
あたしは手が届く位置まで近づき、彼女の肩を掴む。
「何故?」
そう呟くのは魔王とは思えないほど痛々しく痩せた肩、小さな身体。
どうして? それはこっちのセリフだよ。
「どうして! どうしてクロムが魔王だなんて!? どういう事よ!」
あたしは肩を震わせて、そう叫んだ。けれど。
「ごめんなさい姫さま……」
クロムは目を伏せそれだけ言うと。
その場から転移して消え失せた。
クロムが消え、残されたあたしのすぐ横に、
ギュン!
っと背後から飛んできた勇者スカーレット。
「おい! 聖女! 魔王はどうした!」
「逃げました……」
「結界を抜けたというのか!?」
「たぶん……。もう反応は何処にもありませんから……」
「この役立たず! どうしてすぐにあたしを回復させなかった!」
「……」
「黙ってないで何か言えよ!」
バグン!
右手のガンレットの甲であたしの顔を殴る。
でも。これくらいなら防げる。こんなことくらいで負けてあげない。
「ちっ、もういい! 今回の行軍はこれで終了だ! 逃げた魔王を追うことは不可能だからな。帰るぞ!」
そう背を向けるスカーレット。
その場に一人残されたあたしは魔界の灰色の空を見上げて。
「どうして。クロム。あんな悲しい顔をして……」
と、嘆いた。
部隊はそのまま撤収することになった。
しかし。
とりあえずは今回の目的は達したのだろう。かなりの量の魔石を回収したようだった。
魔石はこの世界を構成する魔が凝縮したもの。エネルギーの源だ。
魔法使いであれば自らのゲートに直接この世界の魔を取り込み変換してエネルギーに変えることも出来る。
ラクリエットは明らかにこちらの世界の方が力が増していた。
たぶんクロムもそうなのかもしれない。でなければあの子にあれほどの力があっただなんて信じられない。
でも。
なんでクロムが魔王なんて。
そんなこと……。




