魔界の門。
少し時間を巻き戻しました。。
魔界の門、それは漆黒の魔が集まった澱みのような、そんな空間の歪だった。
まるで黒い池がそこにあるかのような。しかしそれは重力を無視して宙に浮かぶように、そこにある。
地面から、高い杉の木をそのまま飲み込める高さにまで立ち上ったその漆黒の滲み。
「さあ! 行くぞ!」
勇者スカーレットの声を合図に先頭の兵がそこに一歩足を踏み入れる。
たぶん。
何度も通っているものにとってはそこまでではないにしろ、はじめてそこに足を踏み入れる者にとっては底知れぬ恐怖があるのだろう。そう思う。
此処では無い何処か、に、繋がっている『それ』
そんな漆黒の澱みは人の心の奥に振り払うことのできない畏怖を抱かせる。
あたしも。
例外じゃ無い。
っていうかあたしでさえそう感じるのだ。きっと初めて此処に来ることになった聖女の子らも、きっと恐怖に怯えているだろう。
そばにいてあげられないことを悔いるけど、しょうがない、か。
ぎゃー!
え?
先頭の兵、か?
まさか、いきなり向こうで戦闘になった?
漆黒の壁の向こうの様子は見えない。かろうじて聴こえてきた叫び声にしても、人が通り抜ける際に開いたその隙間、周囲の空気が振動してのものだろう。
「皆! 行くぞ! まずはこの向こうの魔を蹴散らせ!」
そう叫び隊列の先頭まで一気に駆け抜ける勇者スカーレット。
その後にパーティーの面々も続く。あたしも遅れないようになんとか走ってついて行った。
巨大な盾と大太刀を持った重戦士デメトリウス。
黒いとんがり帽子。漆黒のローブを纏い、紅いルビーのような宝珠をその先に留めてある魔法の杖を振りかざす、魔法使いラクリエット。
そして、補助魔法、回復魔法用として期待された聖女としてのあたし、アリシア。
その三人を引き連れて勇者スカーレットは魔界門を潜る。
そこには、見渡す限りにひしめき合う魔獣たちが居た。
先頭の兵達は自分たちの盾を重ね、なんとか踏みとどまって。
「はは! 幸先がいいな。これだけの魔獣が狩れるとは!」
「ええ、蹴散らしてしまいましょう」
「まあ待てお前たち。私たちはまず道を開くだけだ。この魔獣達は兵らの鍛錬にちょうどいい。間違っても全滅はさせるなよ!」
そう剣に雷撃を纏い魔獣の群れに突入する勇者。
一旦大太刀を真横に薙ぎ、背にあった大筒を肩に構えたデメトリウス。
「エクストリームキャノン!」
光の帯が走りそこに道ができる。
「ファイヤトルネーッド!」
ラクリエットのその杖、錫杖の先から炎が嵐になって吹き荒れる。
ひしめき合っていた魔獣達は一瞬で半数が魔石に変わった。そして。
「さあ進軍だ! 行け! 我が兵士達よ!」
道を開け背後に戻ったスカーレットのその掛け声に、兵士達は怒涛の勢いで魔界門をくぐった。
あたしといえば……。
スカーレットの背後に待機してひたすらバフをかけてるだけだったけど。




