勇者パーティーへの配置転換。
イヌチャンマウンテンの中腹。山林の中に程よく開けた場所があり、そこが今回の野営地として選ばれていた。
湧水から伸びる川。その河岸に張られたテントの前で息を呑み込む。
「こちらです。スカーレット様がお待ちです」
そうあたしを迎えにきた従者さんにうながされるまま、テントの入り口から中に入る。
あたし達の寝るだけのそれとは違い、天井も高く十数人が一度に入ることも出来そうなそんなテント。真ん中には執務用?の机が置かれ、こちらを見据え座っている女性。彼女が勇者スカーレット様、かな?
「アリシア様、どうぞこちらに」
従者さんに言われるまま用意された椅子に腰掛けるあたし。
「よく来てくれたアリシア王女。私はスカーレット。勇者王ガルーデンが娘、今回の行軍では司令官を務めさせてもらっている」
「お初にお目にかかりますスカーレット様。アリシアと申します。今回の行軍では国を代表して聖女としての務めを果たさせて頂きます」
「ああ、聞いている。なかなかの能力者だと言うことも」
「ありがとうございます」
「で、なのだがな。ここから先はいよいよ魔界に入る。魔獣達もここまでとは比べ物にならないくらい強力な物が出てくるだろう。一般兵では荷が重い場合は私が出る事になるが、その場合の補佐を頼みたい」
え?
「軍の力押しでいける分には問題がない。相手の魔力が多く一般兵では太刀打ちできない場合は私の勇者パーティーで相手をする、と言うことだ。そのパーティーの一員として君をスカウトしようというのだ」
ああ。
「それは命令、ですか?」
断ることなんてできないのだろう。たぶん。
そんな威圧感を感じる。
「まあ、そうだな。これはこの軍の采配をふるうものとしての配置だ。拒否は許さない」
「ほかの、皆は?」
「ああ、彼女らは今まで通り後方で回復スタッフとして働いてもらう。前線には出さないから安心して欲しい」
「では……」
「君はこの司令部所属とする。常に私のそばに待機するように」
あたしは諦め顔で。
「了解しました。それではのちほど荷物を持ってこちらに移動しますね」
と、肩を落としてそう返事をした。
「ああ。移動は今夜中に済ませるように。わからないことはそこのマークに聞け」
と、もう用は済んだとばかりに手をヒラヒラさせるスカーレット。
このあとはあたしをここに案内してくれた侍従のマークさんの指示で動けば良いらしい。
まあ、ここにいれば万一クロムを見つけた時に匿うことも出来るかもしれない。そんな風にも考える。
気が重いけどしょうがない。残りのパーティーメンバーも紹介されたけどしっかり顔も見ずに挨拶しただけであたしは自分たちのテントに戻った。
☆☆☆☆☆
自分の荷物といってもそんなにたくさん持ってきているわけでも実は無いあたし。
ここでは大っぴらに言わないし言わない方が良いかもだけどあたし実は収納魔法が使えるから自分の身の回りの大事なものはみんなそこに放り込んである。
自分の心の奥のゲートの中、魂の中に物が収納できるって、あんまり知られていないのかな。
メーベラに言ったら、「そんな事ができるのは姫さまだけですよ」って言われたけどほんとかな。まああんまり人には言わない方が良さげなので黙ってるし内緒にしてるけど。
心の手を伸ばして物を掴んだり、持ち上げたり。そしてそれをゲートの奥に引っ張り込んだり。
いろいろ試してみたら偶然できたこのレイス収納。
まだ試した事ないけどかなり大きな物でも入る、かな。だから。
カモフラージュに持ち歩いてる荷物籠を持って、あたしは司令部のテントに戻った。
別れ際泣いて抱きついてくれたエリナを宥め、落ち着かせてからだったから少し時間がかかったけど。




