アルル・コンド。
■アルル・コンド
「まあ。魔道王国の伝説、ですわね」
瞳を輝かせてその豪奢な本を受け取るアリシアを横目に眺める。
金色の髪はふわふわと綿菓子のように揺れ、その瞳を覆う長い睫毛が震える。
ビロードのような肌、ふわっと膨らんだ唇も紅く染まってとてもキュートだ。
彼女はもう十二歳になった。身長も成人女性と変わらないほど伸びて子供っぽさも消えた今のアリシア。
最初に出会った時はあんなにも幼く見えたものだったのにな。そう思い返すアルルは目の前の本よりも彼女の事が気になってしょうがなかった。
に、しても。
魔道王国の伝説、か。
紙の本ではあったけれど子供の頃に読んだ記憶がある。
遥かな過去。神話の時代の逸話をもとにした小説だったか。
デウス・エクス・マキナを信奉する古代の国、魔道王国ラスレイズ。
クーデターにより処刑されようとしていた王女ラギ・レイズを助ける漆黒のドラゴン。
その冒険の数々に心が踊った。
アリシアがその飾り表紙を開き本の上に手をかざす。
光の粒子が本とアリシアを包んだかと思うとトランス状態になった彼女。
今、意識は完全にこの本の中に潜っているな。
そう思いつつ自分も目の前の本に集中しようと目を凝らす。
来月には対魔連の招集がかかる。次は自分も出兵しなくてはならないから。そういう事情があったからこその今日の図書館デートだったのだ。
最初は正直な所この聖王国の血筋家柄そういったものが必要だと迫る重臣達の言葉にのせられ訪れただけだった。
王族の婚姻、国同士の婚姻などそういうものだと割り切っていただけで。
しかし。
かわりばえのしない上の二人の姫と違い、この末娘の特異なこと。
興味を惹かれ調べてみると一人離宮にはなれて暮らしているという。
これは。もしかしてこの末娘は虐待を受けているのか? そう思って見てみたけれどどうやら全くと言って良いほどそういうそぶりが見えなかった。
純粋で、明るく。
そして、かわいい。
そんなこのアリシアにアルルは惹かれていった。
飾り立てた言葉、不誠実な言葉は逆効果だと思い直し自分の気持ちを正直に話した所。たぶん拒否はされなかったのではないかなと思っている。
彼女に受け入れてもらえたのでは? そう感じていた。
一冊分の読書を終えて隣を見るとお茶を飲みながらお菓子を頬張るアリシアが見えた。
ほんとうに美味しそうに食べるその姿に。
アルル・コンドは微笑ましく想うのだった。




