聖女。
「聖女を出せ、というのか?」
聖王アントニヌスはそう吐き捨てるように呟いた。
「ええ、現在戦士に魔術師、そして勇者は数が居るのですがどうしても回復術の使い手が足りません。我らが王、勇者王ガルーデン陛下は常に対魔連の前線で戦っておられますが、やはり大量の魔を相手にするにはエリクサにも限界があります。福音魔法、聖魔法の使い手が必要なのです」
フリーデン連合王国。魔王討伐の主力であり対魔連の軍事を司る軍事国家の使者は、ここエレクレスク聖王国の王宮において聖王アントニヌスにそう告げる。
「しかし、もうすでに国内の聖魔法使いはあらかた出兵させたはず。それでは足りぬというのか!」
「ええ、まったく足りていません。年々魔獣も強力になるばかり。それに引き換え聖王国からの人材はどんどん質が落ちているではないですか」
「質が落ちて居るなどと! そもそもそちらの要求に応えようと数を増やした結果ではないか! それでなくとも貴重な聖魔法の使い手を消耗品のように扱う其方らのせいではないのか!」
「陛下、これは戦争なのですよ? 犠牲はつきものですしそもそも我々としても自分の身もまともに守れない者をよこされても困ります。それに。軍事に関しては我々フリーデンに任せておいて聖王国からは兵士1人とて出さずにおいて、ならばせめてとお得意な聖魔法使いをと申しているだけではありませんか。血の盾として前線に居る我々のせめてバックアップをしてくださいとお願いにあがっているのですよ」
「しかし……。もう前線に送る事が出来るレベルの聖魔法使いも聖女もこの国には残っていないのだ……」
「そんなはずはないでしょう? まだ王女が三人も残っているではないですか。何だったら側妃様でもよろしいのですよ? きこえていますよ。その魔力量の多寡も。きっと今まで送られた聖女とは比べものにならない魔力量を誇るのではないですか?」
アントニヌスは手にした錫杖を地面に叩きつけ立ち上がるとその使者を睨みつけた。
☆☆☆☆☆
「アントニヌス様、わたくし戦場に参りましょうか?」
側妃ローゼマリーはその使者が帰るのを確認してカーテンの傍から顔をだした。
フリーデンからの使者が来たと聞きつけかけつけたローゼマリーだったが、王妃を差し置いて面会の場に出るわけにもいかず。
王に言われるままカーテンの傍に隠れて居たのだった。
「いや。マリーは魔力量は多いが回復魔法よりも攻撃魔法の方が得意ではないか。この度の聖女の役割は荷が重いだろう」
「でも……。わたくしでも簡単な回復魔法なら使えないこともないですし。何しろ自分の身は自分で守れますから」
そういうとくるっと回転してみせる。ドレスのままでさえ俊敏な身のこなしが出来るところを王に見せつけるローゼマリーに王は苦笑し。
「マリー。君の気持ちはよくわかる。娘たちを犠牲にするくらいであれば自らが戦地に赴く気持ちであることも。しかしな。あやつらの言うこともわからんではないのだ。我が国は形だけは対魔連の盟主と祭り上げられてはいるが実質その連合軍を指揮して戦っているのはフリーデン連合王国の勇者王ガルーデンであるのも事実。せめて聖女を出すことで貢献できればとは思ってはいるのだ」
「ええ。でも。もう我が国には能力のある聖女、聖魔法使いは姫たち以外には居ないのでしょう?」
「しかしそれもな。コンダーのアルル・コンドが言いおったよ。お前の娘アリシア以外はまだレイスのゲートもろくに開いて居ないとな」
「あの子は……。特別ですから……。あなたの聖なる血とわたくしの血、それが入り混じっていますからね……」
「そうだな、マリー。あれはもう十二になるか。余が初めてお前にあった歳と同じ年齢になったのだな……」
「ええ。アウィ。そうね。あの子ももうそんな歳になったわね……」




