アリシア。
新しいおはなしはじめました。
楽しんでもらえると嬉しいのですけど。。
「貴方たち。それはどういう事ですか!」
人通りの多い往来でアリシアは怒りに我を忘れ叫んでいた。
侍従の制止も聞かず馬車から飛び降りその場に駆けつけた彼女の目の前には年端も行かぬ少女の首に縄をつけて引き連れる男たち。
通りを往く者たちの誰もそれを咎めようとするものが居ない事にもアリシアは腹を立てて。
「そんな年端も行かない子供の首に縄をかけるなんて! 人道に反します!」
そう周囲も見廻しながら大声で訴える。
「お嬢ちゃん、よくみな。こいつのツノは黒いだろ? 魔族なんだよ。ほんと汚らわしい。最近はこういう奴らが森に潜んでたりするからな。俺たち冒険者がお忙しい貴族様に代わって魔族狩りをやって差し上げているのさ」
「魔族だからなんだっていうんです! 確かにわたしたち人間と魔界は戦争をしています。でも、そんな子供には関係がないじゃありませんか!」
「魔族は大人になったら人間を襲うぞ? 敵なんだよ! こいつらは! 今のうちにツノを折ってはむかわない様に躾けなきゃないけないのさ」
「そんな……。そんなのあたしが許しません! 手を離しなさい!」
「おいおい、どこのお嬢様か知らんが世間を知らない様だな。俺は機光のアークス、S級の戦士だ。対魔連予備役だが何度も戦場で武勲をあげている英雄の一人だぞ? 今だってこうして魔族の村を一つ滅してきたところでありこいつは俺の戦利品だ。とやかく言われる筋合いは無いんだがな?」
プルプルと怒りに震えながら顔を真っ赤にしているその少女アリシア。まだ十歳にも満たないそんな子供が大柄な戦士の前に立ち塞がっているのを見て同情する者も居たが、人々は基本我関せずを貫き往来を止めることもしない。
そんな中アリシアの背後から白髪をオールバックにし黒い侍従服に身を包んだ男性が現れた。
「姫様、おいたが過ぎます。この老体、心臓が止まるかと思いましたぞ」
そう背後から声をかけられ振り返ったアリシア。
「ごめんなさいセバス。でも、じっとして居られなくて……」
セバスと呼ばれたその老人は、状況をじっと見て。
「把握致しました。まあ、ほんと貴女様は……。おい、そこの戦士よ、このお方は聖王国第三王女アリシア様にあらせられる。悪いがそこの魔族の少女を譲っては貰えまいか。報酬はもちろん相応の額を用意しよう」
「は!? 王女様だ? まあしかしあんたの身なりでそんな嘘をつく様にも見えないか。まあいいや。その代わりこいつは高いぞ?」
「ああ。私は王宮侍従長セバス・レイニーウッド。報酬の受け取りに関してはこちらの者と手続きしてほしい。レクス、後は任せましたよ」
セバスの横からさっと現れた若い男性、やはり黒の侍従服に身を包んだレクス。
彼らが話を始めたのを尻目に王女に向き直るセバス。
「さあ、姫様、帰りますよ。本日は3時からレイア様とのお茶会のご予定です。急がないとお待たせしてもいけませんし」
「はい。ごめんなさいセバス。レイアお姉様をお待たせしたくは無いです」
そうしょぼんとうなだれたアリシア。セバスはさっと彼女の小さな身体を抱き抱え馬車まで戻った。
☆☆☆☆
魔と真那とに別れている世界。
表の世界には真那、裏の世界には魔。その二つの世界は表と裏にわかれ。
長い間、そこに住むものたちもまた、互いに干渉することなく平和に暮らしていた。
人々は真那が大気に溶けるそんな表の世界で繁栄し。
魔族は魔が溢れる裏の世界で暮らしていたのだ。
しかしある時、そのバランスが崩れることとなる。
稀代の大預言者の予言。魔の世界に魔王が現れ、そして表の世界をも滅ぼすだろう。
その言葉に表の世界の国家は戦慄し、魔王を倒そうと軍隊を派遣する。
「魔王討伐」という名の戦争は100年の永きに亘って続き、魔の国、魔界は荒廃した地面を残すのみとなっていた。