魔法唱えてみた
夜が明けた。夜が明けるといってもここは日の光が当たらないのであまり実感はない。
俺はベッドから起きて一応マントを羽織って鏡を見た。改めて今の自分の姿を見るとかっこいいと思った。中二病の性が出てしまっている。
「魔王になったんだよな」
俺はまだ現実を受け止められないでいた。
「まずは安全に暮らしていくために魔王としての威厳を保たねばいけないな。偽物とばれたら消されるかもしれないからな」
俺はアニメやゲームで見てきた魔王の立ち振る舞いの練習をした。猫背を治す意識をし、動きにキレを出した。そしてマントの端をつかみ体に引き寄せる振り向き方の練習をした。最後のは完全に俺の趣味でかっこいいと思っているからだ。
「そうだ!魔王になったんだし魔法でも唱えてみるか。ゲームしていて一度はやってみたいと思っていたんだよ」
俺はベランダに出て目の前に見える山に向かって詠唱を唱えた。
「闇の炎よあまたの万物を燃やし尽くす焔となれダークフレイム」
言葉と同時に手を前に突き出したが何も起こらなかった。俺は顔が真っ赤になって羞恥を隠せなかった。なんせこの詠唱は俺が中学生の時に考えたくさいものだからだ。
「恥ずかし~恥ずかし恥ずかし。何か起こってくれよ俺がばかみたいじゃねーか」
俺が嘆いていた時大きな音が聞こえた。
ゴォォォォォォドカァァァン!
俺はびっくりしてすぐさまベランダから山を見た。それは山一面が黒い炎で覆われており頂上付近は消し飛んでいた。俺は目を丸くした。大変なことをしてしまったと後悔した。
「やってしまったぁぁぁ。なんであんな威力あんの?もっとこう焚火に火をつけるようなイメージしてたんだけど、【メラ】的なやつ」
魔王城が一気に騒がしくなった。
「敵襲か」
「人間の奴らが攻めてきたのか」
「迎撃の準備をしろ」
王宮内に仕える魔族たちが一気に臨戦体制に入った。そしてすぐにドアをノックする音が聞こえた。
「サターン様ご無事ですか?」
「う、うむ」
「失礼します。サターン様見ての通りですが山が破壊されています。人間の奴らが攻めてきたかもしれません。私マーラと今すぐ玉座に」
(大変なことになってんだけどちょっと魔法唱えるかなって試しただけなんですけど・・・とりあえずなんか言わないと)
「俺がした」
(やべぇぇぇ焦って本当のこと言ってしまったぁぁぁ)
「さようでございますか。何事もなくて安心いたしました。でもどうして破壊したのですか?」
(何か威厳のある言葉を言わないと)
「あ、あ~そうだな。試しただけさ」
(言葉になってねえぇぇぇどうする)
「えーっとだな・・・」
「そういうことですかサターン様」
「へ?」
「サターン様は今後過激派の人間が攻めてくると城のものに伝え、魔王城が攻められたときの対応を確かめられたのですね。いわば戦闘訓練の一環だったのですね。そんな魔王城に仕える者たちへの配慮ある行動私は感服いたしました」
(なんも考えてなかったんだけど・・・)
「そ、そうだ。よくわかったなマーラよ」
「もったいなきお言葉ありがとうございます」
(何とか切り抜けたぞ。威厳があったかは分からないが)
「それではサターン様、玉座にて魔王様復活の儀をいたしますので私とご同行いただきたく存じます」
「な、なにぃぃぃぃぃぃ」
安堵したのも束の間さらなる試練が追い打ちをかけてきた。不安が募る中俺は玉座に向かった。