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七 怪獣美少女登場 ~口から赤色の怪光線(かいこうせん)~

「怪獣の着ぐるみ?」


 咆哮が聞こえて来た方向(ダジャレじゃない)に顔を向けた一郎は、ビキニ姿の健康的に日焼けをした、高校生くらいの女の子が頭部にだけ、触手がたくさん生えている不気味な着ぐるみのような物を被って立っている姿を見た。


「〇カ娘? いや、クトゥルー? んん? 怪獣美少女、とか?」


 一郎は矢継ぎ(やつぎばや)に言葉を出す。


「がおがおがおがおが」


 何かを話しているかのように、女の子が吠えてから、口を大きく開けると、口の中から赤色の光が溢れ出す。


「ジャベリン危ない」


 じゃーっという音とともに怪光線が女の子の口から発せられ、ミーケが一郎を突き飛ばす。怪光線が一郎の立っていた位置に向かい、その場所にいたミーケに直撃する。ミーケがその場に崩れるようにして倒れ込む。


「お、おい? ミーケ?」

 

 一郎はミーケのそばに行く。ミーケの体が小さくなって行き、このゲームの世界に来る前の三毛猫の姿に戻る。


「ミーケ?」


 一郎はしゃがみ込み、ミーケの顔を覗き込む。目を閉じ、浅く早い呼吸を繰り返しているミーケはとても苦しそうに見える。


「嘘だろ? なんだよ、ミーケ。冗談だよな?」


 ジャベリンのビビり。当たり前だろ。ミーケはこれくらいじゃやられない。そんな言葉が返って来る事を期待して、一郎は黙って待っていたが、ミーケは、なんの反応もせず何も言わない。


「なあ、ミーケ。嘘だろ?」


 一郎は、ゆっくりとミーケに向かって手を伸ばす。ミーケの被毛にガントレットに包まれている指先が触れる。


 一郎の脳裏に幼い頃の記憶が蘇った。


 幼い頃、一郎はチコという名の白猫を一匹飼っていた。ある日突然、猫を拾って来た一郎が、飼っていい? と母親に言うと、母親が苦笑しながら飼っていいわと即答してくれたので、チコはあっという間に一郎の家の子になった。新しくできた小さな姉はよくできた子で、一郎が子供にありがちな遠慮のないかまい方をしても一度も一郎を噛んだりひっかいたりはしなかった。一人っ子だった一郎は、チコにべったりだった。チコはそんな一郎にとても優しく接してくれていた。そうそう。そういえば、チコに関するこんな心の温まる話がある。一郎自身は覚えてはいない、母親から聞いた話なのだが、チコは、仕事で帰りが遅くなった母親を玄関まで必ず出迎えに来ていてそうだ。玄関にちょこんと座って待っているチコを見る度に、母親は、母一人子一人の家庭にチコが来てくれた事に感謝していたという。


 そんなチコとの別れもまた突然だった。ある日、小学校に行く為に家を出た一郎は、家の門の外で倒れているチコを見付けた。ちょうど、今のミーケと同じように、目を閉じていたチコだったが、ミーケとは違う事が一つあった。チコは呼吸をしてはいなかった。チコが大変だと叫ぶ一郎の元へと駆け付けた母親が、チコは車に轢かれたんだろうと、涙ながらに告げた。


 一郎は、ミーケをゆっくりと持ち上げる。


「ミーケ。死ぬなよ。大丈夫だからな。すぐに病院に連れて行く」

 

 一郎はそっと優しく決して壊さないようにミーケを胸に抱くと駆け出した。だが、すぐに足を止めようと思った。


 病院なんてどこにあるか分からない。そうじゃない。俺が治すんだ。俺が今持ってる力ならきっとミーケを治せる。


 一郎は足を止める。砂浜の砂に鎧を着て動く事にまだ慣れていない一郎の足が引っかかる。一郎は前のめりに倒れて行ってしまう。一郎の腕の中からミーケがこぼれ落ちて行く。


「ミーケ」


 一郎は足を必死に前に向かって動かし、これでもかと手を伸ばす。手に何かが触れたが、それがミーケの感触なのかなんなのかは一郎には分からなかった。


「がおがおがおがおがお」


 体が倒れた衝撃を受けて一瞬閉じてしまっていた目を開けると、一郎の目の前には、怪獣美少女の顔がある。


「なんだ?」


 呟く一郎の兜の中の顔を覗こうとするかのように少女の潤んだ目が大きく開く。


「なんでもいい。今はミーケだ」


 一郎は倒れている体を起こそうと手を動かす。ガントレット越しにほどよいはりと柔らかさのある何かが、もにゅっと手に触れる。


「も、もにゅ?」


 恐らく、さっき足が砂に引っかかった時、怪獣美少女を巻き込んで一緒に転んでしまったのだろう。この感触プラス自分の目の前に下敷きになるようにして仰向けに倒れている怪獣美少女イコール。イコールの後に続く答えは。それは、それこそは、あの伝説のラッキースケベ!! 欲情ゲージが急上昇するが、さすがの一郎もこの状況ではラッキースケベを堪能できず、すぐに欲情ゲージが下がり始める。


「ほっほう。ミーケが大変な時に随分(ずいぶん)と楽しそうじゃのう、われ」


 なぜか広島弁チックなミーケの言葉が聞こえて来る。


「おお。ミーケ。目が覚めたのか?」


 一郎は心の底から込み上げる安堵と喜びを乗せた声を発しつつ、動きを止めてしまっていた手を動かす。もにゅもにゅむにゅーん。怪獣美少女の胸が図らずも揉みしだかれる。


「がおぉ。がおがぁおぁおーん」


 怪獣美少女が(つや)っぽい声を上げ、一郎にがばっと抱き付いた。


「見せつけてくれるのう。どういうつもりなんじゃろうのう?」


「ミーケ。良かった。本当に良かった。俺は、お前の事が心配で心配で」


 一郎の目から涙が溢れ出る。涙の雫が、怪獣美少女の頬を濡らす。


「ああ~ん? (よだれ)か? お前、涎なんぞを垂らしとるんかぁ、おお?」


 一郎の脇腹を衝撃が襲う。一郎はもんどりうって転がって、砂浜の上に仰向けになる。


「な、なんだ?」


「ミーケが蹴ったんじゃ。おんしゃ、まだまだ、これからだからのう。今日はとことん、やるけえのう」


「がおがおがおがお」


 迫って来るミーケの前に、怪獣美少女が、一郎を背後にかばうようにして立つ。


「おお? なんじゃあ、われ?」


「がおがおがおが」


「何を言ってのんじゃ? 分からんのじゃ」


「ミーケ。お前もこの子の言葉分からないのか?」


「おう。全然分からんのう」


 ミーケが腰を曲げ、下に向かって手を伸ばし、砂浜の砂を手に握る。


「アドミニミニコード。翻訳(ほんやく)こん」


「おい。待てい。駄目だろそれ。パクり過ぎだろそれ」


 一郎はミーケの言葉を途中で(さえぎ)るように言いながら、ただでさえ、猫型ボットに万能チート能力持ちなんだぞ。と思う。


「ええ? 何がじゃ? この翻」


「分かったから。もうそれは言わなくていいから。それを早く俺にもくれ」


「しょうがないのう」


 ミーケが翻訳ごほんごほんを齧りつつ一郎のそばに来ようとする。


「がおがおがおがお」


 怪獣美少女がミーケの邪魔をする。


「ああーん? なんじゃ?」


「まあまあ、二人とも。もめないもめない」

 

「がおがおがおが?」


 怪獣美少女が道を開ける。


「何今の? ジャベリン、これと、意思疎通できてるよね?」


 ミーケが一郎を睨む。


「おお。言葉遣いが戻ったじゃないか。って、そんな事ない。たまたまだろ。たまたま」


 一郎は翻訳ごほんごほんをミーケからもらって食べる。


「で、お前なんなの?」


 ミーケが言って、怪獣美少女の方に目を向ける。


「ガオガブはガオガブなのです。この温泉に住む怪獣なのです」


「おお。翻訳、おっと危ない。すげー」


 一郎は思わず声を上げる。


「で、その怪獣がなんでいきなりミーケを攻撃するの?」


「あなたがチーターを倒す為のボットでお母さんを倒しに来たからなのです」


「そうなると、君もチーター?」


 お母さんってのは仲間の名前かなんかかな? と一郎は思いながら言う。


「違うのです。お母さんもガオガブも、ここに昔から住んでいるイベント用のNPCなのです。けど、お母さんはチーターに操られてしまっているのです」


「じゃあ、お母さんを操られないようにすればいいんじゃないのか?」

 

 一郎はミーケの顔を見る。


「無理なのです。背中に機械を埋められてて、それを取らないと駄目なのです」


「取ればいいじゃん」


 ミーケが言う。


「ガオガブが取ろうとしてもお母さんは凄く怒るのです。だから無理なのです」


「だったら、お母さんを倒しちゃえばいい。ジャベリン。ちゃちゃっとやっちゃおう」


「駄目なのです。お母さんに手出しはさせないのです」


 怪獣美少女改め、ガオガブとミーケが睨み合う。


「ミーケ。倒さないで取ればいいだろ。俺達ならできるはずだ」


「ふーん。ジャベリンは、この子の味方するんだ」


「お前、味方って、そういうんじゃないだろうに」


「ありがとうなのです。さすが、ガオガブをお嫁さんにしてくれる人なのです」


 ガオガブが一郎に抱き付いた。


「はい?」


 一郎は訳が分からず、ガオガブの顔を見つめる。


「どういうことなのじゃろうのう? ジャベリン。ああ~ん?」


 ミーケがまた広島弁チックな言葉遣いになった。

読んで頂きありがとうございます。評価、ブックマークなどをぽちっとしてもらえると、作者のテンションが上がります。よろしくお願いします。

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