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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ7 タリスマンの闇
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13 死体電流

 タリスマン支部の前。

 ついにブリトニーとメルヴィンはタリスマン支部にたどり着いた。


「しっかし、もっと警備があると思ったんだが。案外手薄だな」


 ブリトニーは言う。

 そう、タリスマン支部には人の気配がない。もしかするとこのタリスマン支部――敵の本拠地はすでに放棄されているのかもしれない。そうでなければ、まだ隠し玉があるのかもしれない。

 いずれにせよ2人は気を抜こうとしなかった。なぜなら、近くにはただならぬ気配があったから。影を伸ばし、2人を包み込むような――


「来るぜ。生きてる人間とは違う生体電流。いや、死体電流とでも言っとこうか」


 と、ブリトニー。

 彼が生きていないことに気づくまで少しかかったが。敵襲には気づいていた。その相手は――


「あたしに対応できる相手かどうかわからないが戦うしかないね。レヴァナントならちょっと斃し方が特殊になるのかもしれねえ……」


 ブリトニーがそう言っている間。その影は近づいていた。影に潜みながら地中を移動し、好奇をうかがっている。そして――

 メルヴィンの後ろだ。彼――トウヤは影から姿を現し、刀を振るう。この一撃でメルヴィンの首を落とそうとしたのだろう。メルヴィンはそれを知って立てかけられていた鉄パイプで刀を受け止めた。


「軽いな。あんたの一撃は、今は亡きリーダー達には敵わない」


 と、メルヴィンは言う。


「軽い。だから何だ? 俺の持ち味はそれだけじゃないが」


 トウヤは言った。刀は振り払われたものの、トウヤはダメージを受けることもない。その間にもイデアの展開範囲を広げ続け、半径10メートルの影が現れる。

 メルヴィンもブリトニーも。トウヤの能力とその持ち味を未だ理解していなかった。そもそも初見の相手であり、能力の詳細を見抜くのはよほどのことがなければ困難なのだが。


 足元に展開されていた影。この力は何をどうするのだろう。

 そんなとき、ブリトニーが異変をかんちする。


「そいつ一人じゃないぜ。あと一人。見えねえところからあたしらを狙ってる」


 と、ブリトニー。

 彼女はすぐさま影の範囲から外れ、その気配の方へ走ってゆく。

 ――鬼ごっこみてえなことになるのかな? 闇討ちするか、されるか。そういうモノも面白いじゃねえの。


 ブリトニーがほくそ笑む。イデアを展開しながら周囲に極力被害を与えないように索敵する。ある程度は場所が絞り込めているのだが。

 それを見る少女エミリー。鉈を右手に持ち、地上を走り回るブリトニーを見ながら呟いた。


「鬼ごっこでもするの? 楽しそうだね」


 彼女がいるのは平屋の建物の屋根。そこからであれば、ある程度は見通しがいい。ブリトニーを探しやすいのだ。

 エミリーはブリトニーが逃げようとする方向に走り出すのだ。


 その一方、メルヴィンはトウヤの能力の本格的な発動を待っていた。展開されているのと能力が発動しているのは違う。今メルヴィンが触れているトウヤの能力は展開されているだけで発動はしていない。


 ――まだか? なら、こちらから仕掛けるとしよう。


 先に動くメルヴィン。廃墟の一部を水に変え、それで水流を作り出してトウヤに向かって叩きつけた。並の人間であればこれで死ぬのだろう。少なくとも生きた人間なら息ができなくなればそのうち死ぬ。すでに死んでいるレヴァナントにもそれが適用されるかどうかはまだわからないのだが。

 これは威力偵察。メルヴィンはそう割りきってトウヤを見ているが――


「……ああそうか。彼はもう死んでいたんだな」


 一瞬だけ驚きの表情を見せたあと、トウヤの事実を思い出す。

 目の前の敵トウヤは水圧で首が取れたようだった。トウヤは取れた首の毛髪を掴み、流されるのを防いでいた。


 メルヴィンは水流でトウヤを倒せないことを悟り、一度水を一点に集める。膨大な水だが、メルヴィンの手にかかればそれほど難しいことではない。

 そんなメルヴィンの姿を見ながらトウヤは興味ありげな表情を浮かべる。


「思い出したよ。君、水の魔物だな?」


 水の魔物。それはメルヴィンのかつての異名だった。メルヴィンは魔物と呼ばれ、ある魔物ハンターに殺されかけ、タリスマンの人間に恨みを抱くこととなったのだ。


「ユーリーが殺し損ねたんだったか。まあ、それは俺が気にすることではない」


 トウヤがそう続けたとき、展開されていた闇はより一層濃くなる。メルヴィンはそれを待っていた。

 やがて影から手のような、触手のようなものが現れ、メルヴィンの手足を捉える。それはメルヴィンを少しずつ影に引きずり込んでゆくのだった。


 ――なるほど、こういう能力だったか。


 影に引き込まれながら、メルヴィンはトウヤの方を見る。彼もまた影の中に入り込もうとしていた。この影の中に人を引きずり込んで何をするつもりなのだろう。


 ――中には武器を持ち込めないか。刀を持った敵に対処するのはちょいと厳しい。それと、問題はこの中でイデアを扱えるかどうか。


 そして、完全に引き込まれて影の中へ。

 広がる暗黒空間。その場所はまさに無。暗黒空間のわずかな光に照らされるトウヤはメルヴィンの方を向いた。


「ようこそ、俺の世界へ。水の魔物には悪いが、君の自慢の能力は封じさせてもらったよ。ここにイデアを持ち込むことはできないのでね」


 と、トウヤは言った。


「限定された空間である以上、支配権はお前にあるということか」


「理解力があって嬉しいよ。相手が悪かったねと言いたいが、君といた彼女は完全にイデアに頼り切った戦闘をしていたから多分いい選択だよ」


 トウヤはそう言って笑う。

 取れていたはずの首はつなげられ、首には包帯が巻かれている。この空間にやってきたときにでも巻いたのだろうか。

 首に巻かれた包帯など気にせずトウヤは刀を取り、メルヴィンに向けて踏み込む。


 ――剣筋は見えている。多分俺はこれを避けられる。


 メルヴィンはトウヤの斬撃を避けた。


 ――なんだ、ダニエルより遅いじゃないか。影がなければ楽な相手だろうな。



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