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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ1 対策チーム、結成
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8 死体研究所

拷問回です。

 遺体の持ち去りが起きた翌日、何も知らないユーリーたちは死体研究所を訪れる。


 死体研究所に到着するなり、タリアが一行を出迎えた。


「案内役を務めます、タリア・バローネと申します」


 タリアは緊張した様子で言った。


「では、所長のところに案内しますね。本当はケガをしているんですが、どうしても会いたいとのことで」


 一行はタリアに案内されて会議室らしきところにたどり着く。

 そこで待っていたのはプラチナブロンドの髪の、眼鏡をかけたスーツ姿の男。彼がイアン・クレヴィック所長。


「待ってたよ。ゾンビ……いや、君たちの間ではレヴェナントと呼ぶのか。とにかく、それ関係の仕事だというのでぜひ協力させてもらおうと思ってね。私はイアン・クレヴィック。ここの所長だ。主に死体の腐敗について研究している」


 クレヴィックはにこりと笑う。少しエキセントリックにも見えるが、彼はヘンリクと同じく悪意を持っているわけではない。


「と、まあ自己紹介はここまでとして。一つ大切な話がある。研究所の遺体がいくつか持ち去られた。どうにか取り返そうと思ったのだが犯行グループの連携が凄くてどうにもできなかった。そのうえ、戦闘員も全滅させられたみたいだ」


「そんなことが……」


 ゲオルドは思わず口にした。

 クレヴィックから発せられた言葉が何を意味するか。それを考えていたのはゲオルドだけではなかった。

 ひときわ深刻そうな顔をしたのはユーリーだ。レヴェナントという存在を知っており、実際に目撃した彼が深く考えることも不思議ではない。


「すみません、クレヴィック所長。犯行グループはどのような人たちだったんでしょうか」


 と、ユーリーは言った。


「やはり聞いてくれるか。彼らは最低でも5人のグループ。1人は逃げだしたが、4人は倉庫に閉じ込めているよ。彼らに会ってみるかい? 」


 クレヴィックは言った。

 彼の予想外の発言と、得体のしれない殺意を感じ取ったユーリーは背筋を撫でられるような感覚を覚えた。

 ――イアン・クレヴィックという男は只者ではない。


「ぜひお願いします。彼らに目的なんかは聞いておくべきでしょう」


 今度はゲオルドが言う。


「普通に聞いたのでは全く口を割らなかったがね。君たち相手に事情を吐くことは期待しないでおくよ。ついておいで」


 クレヴィックは手招きをしてユーリーたちを地下の倉庫に案内した。


「ちなみに、犯行グループはイデア使いだった。彼らの処遇についてはぜひ鮮血の夜明団に頼みたいところだ。特に、私を殺そうとしたメイナードという男をね」




 倉庫は厳重に閉められており、2人の見張りが扉の横にいる。


「私だ。少し事情があって、犯人と顔を合わせる」


 クレヴィックは見張りに事情を話し、鍵を開ける。

 地下の倉庫は埃っぽく、普段はあまり使われていないようだった。


「……今度は何をするつもりだ! 」


 メイナードは言った。


「君に用事があるのは私ではないのだが」


 クレヴィックは突っかかるメイナードを受け流す。彼にかわってメイナードの相手をするのはゲオルドたち。

 道中で言われた特徴に当てはまる男が縛られているのがユーリーの目に入る。おそらく彼がメイナードなのだろう。


「初めまして。名乗るほどでもないが、俺たちは魔物ハンター」


 ゲオルドは言った。


「所長。これからやることが不適切だと思うのなら止めてください。俺たちは、人によりますがこういうことをやる組織です。俺たちは正義の味方ではありませんから」


 そうつづけたゲオルドはメイナードに近づいた。


「アディナ。他3人とメイナードを隔離してくれ。できたらこいつの手にも棘を刺してもらえるか? 」


「わかっている」


 アディナは答え、3人を隔離するために地面に触れた。

 ――せりあがる地面。それは地面を抉りながら3人とメイナードを隔離する壁となる。


 今度はメイナードの手。壁より小規模だが、鋭い棘がメイナードの手のひらから彼の手を貫いた。


「くっ……!? 」


 苦痛で表情が歪むメイナード。彼は一瞬で何が起きたのか理解した。


「メイナード。何が目的だったんだ? 」


 と、ゲオルドは言った。それは最も核心を突いた質問だ。


「……ゲオルド。続けてくれ。彼に関してはイデア使いということもあって手を抜いてはいけないだろうと判断した。私としても心が痛むが」


 答えないメイナードを前にして、クレヴィックが横やりを入れる。これで拷問する5人を縛るものはなくなった。

 口を割らないメイナードに近づくマルセル。彼はしゃがみ込んでメイナードの指先に触れた。


「話さなければ1枚ずつ爪をはがす。知ってるか?指先には神経が集中しているんだぜ」


 マルセルはメイナードの耳元で囁いた。この状態、手のひらを土の棘で貫かれた状態でもメイナードは口を割らない。


「まずは1枚だな。あんたは、どっちの人間だ? 」


 爪が剥がされる。苦痛に歪むメイナードの顔。


「もう一回聞くぞ。何が目的で遺体をここから持ち出した? 」


 と、マルセルは尋ねた。それでもメイナードは口を割る気配もない。どうやら彼の信念と精神力は相当なものらしい。


「爪が終わったら次は服を脱がせてその皮をはぎ取ってもいいなあ?メイナード」


 確実にメイナードを脅すマルセルを見ながら、ユーリーは複雑な顔をしていた。目をそむけたくなる光景ではあるが、ユーリーはそれにも慣れてしまっていた。ただ、思うところはマルセルの行動だった。


 ――マルセルのしていることは最も憎むべき存在であるトロイ・インコグニートと何ら変わりはない。犠牲者を目の前にして圧力をかけ、痛みを与え、拷問する。それが必要なことであったとしても。


 ユーリーは歯を食いしばる。


「おい、どうしたんだ?ユーリー? 」


 ユーリーの隣に立っているクリフォードが尋ねた。彼も彼なりにユーリーのことを気にかけているようで。


「なんでもない、とは言えないな。それでも俺はマルセルとは相いれねえだろうな」


 ユーリーは本心をできるだけぼかして言った。


「わかっている。このチームは任務のために編成されたチーム。好き勝手な感情で結束を乱してもいい仲良し集団とは違うんだ」


「確かにそれも言えているな……」


 クリフォードはそう言って、マルセルの方に顔を向けた。

 マルセルは拷問を楽しんでいるということでもなく、ただ淡々と己のすべきことだけを考えていた。彼もまた無理に感情を押し込んでいるらしい。


「……なあ、メイナード。どうなんだ?今度は傷口に塩を塗り込んでもいいぞ」


「く……あの死体は、俺たちの雇い主に頼まれたモノだ!それ以上詮索するなら、アレンに追いついてみることだな! 」


 メイナードは叫び、その体を、左手を貫く棘に突き刺した。

 ――棘はメイナードの心臓を一突きし、メイナードは息絶えた。自死だった。


 ここにいる6人はメイナードの自死に驚愕し、しばしの間言葉を失っていた。


「ゲオルドさん、クレヴィック所長。アレンという名は手がかりになるんでしょうか」


 マルセルは振り返って静寂を破るように言った。

 今、彼の服にはメイナードの血が付着している。


「彼はアレンに追いつくと言っただろう。私が4人を捕らえたときに1人逃亡者がいた。彼がアレンだというのなら、どこから逃げたのかもわかる。念のため、マップに印をつけておいた」


 と、クレヴィックは言った。


「ただね、君たちの事情も知っている。君たちは明日、タリスマンに行くんだろう?さすがに死体持ち去りの犯人を追うことまで任せることはできない。申し訳ないが、犯人の追跡はこちらで別の人に頼んでもいいかい? 」


「でしょうね。俺たちも犯人を追ってタリスマンに向かえないことになれば困ります。もし犯人がタリスマンの人物と関係あるのなら、犯人の追跡チームと合流できればありがたいです」


 ゲオルドが提案する。


「それがいいな。テュールの町のも最寄りの支部とその周辺の非公認魔物ハンターに連絡してみる。君たちも健闘を祈るよ」


 と、クレヴィックは言う。


 一行は、追跡をすることなくタリスマンに向かうこととなった。そして、クレヴィックは彼自身とつながりのある魔物ハンターに連絡をとるのだった。



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