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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ7 タリスマンの闇
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4 トロイ・クレヴィック

 本拠の入り口のフィルとルナティカ。


「勘違いしないでね。フィルは私を護衛していたにすぎないから。ちょっと話せば長くなるんだけど。あと、おろして」


 と、ルナティカは言う。

 すると、フィルは何かを思い出したかのようにルナティカを下す。そんなときにも見えてしまうフィルの左手の傷がどうにも痛々しい。


「ルナを護衛してくれたことについては感謝するぜ。が、だからと言ってあんたを簡単にここに入れるわけにはいかねえが。あんた、何者だ?」


 ユーリーは尋ねる。


「フィル。彼女の護衛を頼まれたしがないプリズン・ギャングだよ」


 フィルは答えた。

 すると、ユーリーの方が一瞬だけ驚いた。それもそのはず、ユーリーはプリズン・ギャングから敵視されている立場にあるはずなのに、フィルは彼に対して今のところ敵意を見せていない。


「なあ、あんた俺に恨みがある連中の1人なんだろ? なんで俺を殺そうとしない?」


「は? めんどくせえよ、そんなこと。個人的な感情でわざわざ労力までかけて人を殺すかよ? 少なくとも俺はしねえよ」


 ため息をつきながらフィルは言う。

 クロイツやライオネル、その他プリズン・ギャングのメンバーとは大違いだった。


「なるほどな。俺たちの仲間にも何もしねえんだよな?」


「そんな面倒なことするわけがないな。第一、俺にそんな力なんてねえよ。ルナティカならわかるだろ」


 急に話を振られたルナティカは一瞬だけ戸惑ったが――


「そうだね。だってジェラルドに襲われたときに私たち、逃げるしかできなかったわけだし。あ、私は何もされていないからね!」


 取ってつけたように、だが本心からそう言った。


「だから安心して。ユーリーなら多分、フィルが何かしようとしても抑え込めるはずだから」


「……あんた、たまに凄いこと言うな。だから参謀やってられたってのもあるけどな」


 ユーリーは苦笑いすると、2人を本拠の中に案内する。


「覚悟しとけよ。場合によっては武器を向けられることだってある」


 そう言って本拠の部屋の中に入る3人。


「どういうことだ。お前はスパイでも連れてきたのか?」


 やはりマルセルはクロスボウを取り、フィルに向けようとした。


「だからその心配はいらねえ。特にここにいるルナ……ルナティカ・キールはトロイのことを知ってる重要人物だぜ。仮に間違って殺しでもしてみろ。俺が許さねえぞ」


 只者には見えないユーリーの威圧感。ルナティカ以外が怯んだ中、彼女はユーリーの前に歩み出る。そして。


「ユーリーの言ってること、本当だから。私、これでも獄中から会長にトロイ・クレヴィックのことを言ったんだからね」


 と、ルナティカは言う。

 彼女の口から出たのは、マルセルとメルヴィン以外には聞きなれない名前だった。トロイ・インコグニートならば、今回の黒幕とされている人物で間違いないのだが。


「誰かと混同していない? 死体研究所の所長とかと。彼の苗字もクレヴィックだったはず」


 と、アディナは言う。

 すると、ルナティカは首を横に振って口を開く。


「違う。死体研究所の所長とトロイは別人。兄弟ではあるんだけど。それで、どこから離せばいい? 今の支部長について? それとも、刑務所とタリスマン支部の癒着について?」


 ルナティカは見た目以上にしたたかな女だった。タリスマンの元参謀は伊達ではない。


「今の支部長について話してくれるか」


 と、マルセル。


「わかったよ。まあ、結論から言えばトロイという人物は2人いる。今、支部長の座にいるのがトロイ・インコグニート。彼はまあ、権力のためにその座についたようなもの。で、トロイ・クレヴィックは裏からいろいろなことを動かしているみたい。

 やっていることは私にもわからない……というか、調べようとすればことごとく嘘でした、ってことになるわけ。どういう方法か知らないけれど、何かしらの方法で偽っているんじゃないかと思う。

 ここは私の予想だけど、トロイ・インコグニートはトロイ・クレヴィックのやることから目をそらさせるための存在じゃないかって」


 それを聞いていたメルヴィンはゴクリと唾を飲んだ。

 まだ記憶に新しい刑務所でのこと。トロイはゲオルドを殺すその瞬間まで何かをつくりかえているように見えた。あるいは何かを錯覚させているか。これは何を意味するのだろうか。

 メルヴィンは口を開く。


「ルナティカ。俺はさっき、トロイ・クレヴィックに接触した。何かを偽っているのは俺にもよくわかった。だが、何を偽っているかどうかがわからないな。やはり不祥事といったところか?」


「さあね。私にもわからなかったんだし、正直どうしようもないのかもしれない。ま、刑務所との癒着と私のこととユーリーにさせていた人殺しのことを考えればどうにかなると思うよ。じゃないね、どうにかする。私はそのためにここまで来たんだから」


 ルナティカはそう言ってほくそ笑んだ。


「で、ユーリーはともかくあんた達は何がしたいの? 私と同じで支部長を引きずり下ろしたかったりする?」


「それもあるが、まずはアンデッドの件だな。もともと俺たちはそのために編成されたんだ」


 と、クリフォードは言う。


「そっか。だったらまずはトロイ・インコグニートを討つことを考えないとね。今の状況は割と把握しているつもりなんだけど。多分、そろそろトロイ・クレヴィックや処刑人も介入してくるんじゃないのかな。ヘザーがやられたわけだしね」


 ルナティカは言った。


「戦力を分散させてタリスマン支部のトロイ・インコグニートを叩くのが先決かな。ここにヤツが介入しないことは保証できないんだけど……」




 本拠近くの廃墟。その床に座っていたのはイザベラだった。携帯端末を耳に当て、語られたことに対して返事をする。さらに。


「支部長? 私からもお願いがあるんだけど。ジェラルドじゃ複数に対して立ち回れそうにないから本拠襲撃は私に代わってくれる?」


 イザベラは言う。


『そうだね。確かに彼にとっては弱点でもある。君に頼むよ』


 支部長は言う。

 イザベラは電話を終えて携帯端末をポケットに仕舞いこんだ。


「支部長は私にやつらを討ってほしいってことだよねえ。勿論返事はイエスなんだけど……」


 イザベラは顔を上げる。


「警戒するのは敵だけじゃないからね……」



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