15 見えない脅威は音もなく忍び寄る
ブリトニーとアディナより遅れて到着した者たちが3人。ゲオルド、マルセル、メルヴィンの3人だった。
ブリトニーたちがやったのか、レヴァナントはわずかな生き残り以外、入り口にはいなかった。壁に仕切られた向こう側にはいたのだが。
「俺たちもここから内部に入ろうか。ゆくゆくはユーリーたちとも合流したいな」
真っ先に中に入ろうとしたゲオルドとそれに続くマルセルの後ろ。メルヴィンは未だ、迷いを抱えていた。
――俺は何を考えているんだ。もうデーモンボーイズは存在しないというのに。俺は馴染めもしなかったしもう存在しない集団に執着し続けるのか……?
「どうした、メルヴィン。困ったことがあれば聞くが」
ゲオルドは振り向いてメルヴィンに尋ねた。
「なんでもない。あんたには多分、関係ない」
と、メルヴィン。そんな中でもメルヴィンはゲオルドの中にかつてのリーダー――シャルムと同じものを感じ取っていた。もう少し彼のことを知ることができれば、あるいは。
そして3人は刑務所の内部に足を踏み入れる。
最初のフロアは地獄絵図というべきだった。レヴァナントはもはや残骸しか残っていないが、その残骸が山を形作っている。酷い有様だった。さらに、ところどころに積みあがるレヴァナントの残骸が腐臭を放つ。メルヴィンは思わず鼻を覆う。
「メルヴィン、マルセル。心して聞いてほしい」
ゲオルドは言った。やけに神妙な様子のゲオルドはマルセル、メルヴィンの顔を交互に見る。
「会長からの極秘の情報。本物の支部長、トロイ・インコグニートについてだが」
「本物……」
マルセルは聞き返す。それもそのはず、このことは未だにシオンとゲオルドとグランツ、そしてルナティカしか知らない。他の人物が知ることも許されなかったこと。
「そのトロイ・インコグニートをここで討つ。彼は、この刑務所で囚人のふりをしていたらしい。聞き出せる分だけ聞き出して、殺す。一筋縄ではいかないのだろうが」
「待て。それじゃあ、偽者がいるのか!?」
と、メルヴィン。
「ああ。これは最近、ある魔物ハンターの報告でわかったことなのだが。話によれば、その偽者が今のタリスマンの支部長らしい」
「そういうことだったのか……」
複雑な顔のメルヴィン。鮮血の夜明団はメルヴィンが思う以上に闇の深い組織だという。
「さて、行こうか。あるスジから入手した情報ではこのフロアに本物がいるらしい」
3人はゲオルドの示す例の部屋に向かうのだった。
個室に座る男、トロイ・インコグニートは大きく息を吐いた。
「どうやらばれてしまったようだ。私の情報を誰が抜き取ったのかね……我が友よ」
顔を上げたその男はタリスマンの支部長と全く同じ顔をしていた。違うところといえば裸眼であるところと、体格くらいだろう。タリスマンの支部長と同じくらいの身長ではあるが、こちらのトロイの方がほんの少し、肉付きがいい。
そのトロイは純白の棺のビジョンを出す。棺は光りだし、その光が広がったと思えば――
「混乱しろ。私と我が友の正体にたどり着くことなど、誰にもできないのだよ……」
トロイは壁に寄りかかったまま、近づいてくる3人の気配を察知していた。いずれもイデア使いであり、トロイを殺そうとしている。彼らの声も、トロイには聞こえていたのだった。
ゲオルドは扉の前で立ち止まった。閉じられた扉は開けられた形跡もなく、中からは人の気配がする。
メルヴィンは扉に近づき、扉にふれる。すると、扉は水となり、その形を保てなくなったと思えば地面に流れ落ちる。
「いらっしゃい。待っていたよ」
トロイは言った。
「それは歓迎しているうちに入るのか? 俺は事情を聞きたくてここに来たに過ぎないが」
「事情か。果たして私が語ることに意味があると思っているのかね?」
ゲオルドに尋ねられ、トロイは顔を上げた。
「あるだろう。そもそも、こちらにもある程度の情報はある。お前に聞くことは検証にすぎない」
ゲオルドは一息おいて、もう一度口を開く。
「この刑務所近くにゲートがあるのは本当か? あなたの立場であれば、その情報を得るのも困難ではないはずだ」
「それは本当だ。なぜタリスマンにイデア使いが多いのか、それを考えてみれば行きつくのは当たり前のことだよ」
トロイは答えた。この時までは、トロイは何かをするようなそぶりを見せなかった。じっと刑務所の壁に寄りかかりながら座って、何か考え事をしていた。
だが。トロイは何の前触れもなくイデアを使っていたらしい。本当は、トロイのいた場所は刑務所の一室と言べきところではない。それらしく作られた隠し部屋であり、その存在を知る者はほとんどいない。
そして。何もないと思われていた場所から徐に拳銃を取る。それさえもゲオルドたちは気づいていない。
「そういうことか。では……今タリスマンで支部長を務めているのは――」
ゲオルドはこの瞬間、初めて痛みを知覚する。胸に走る激痛。気が付けば左胸からは血が溢れ出ていた。
――見えるものばかりを信じてはならない。見える脅威であれば対処してしまえばそれまでだが、見えない脅威は音もなく忍び寄る。
「ゲオルドさん!」
マルセルがゲオルドに駆け寄る。
「駄目だ! お前まで殺される――」
このままでいれば全滅するのは明白だ。だからメルヴィンは賭けに出た。
床を部分的に水に変化させる。そうして下のフロアに行けるのなら、それでいい。ゲオルドが生きていられる確証はないが、全滅するよりはましだ。
「な……」
マルセルが困惑する中、3人は下のフロアへと落ちてゆく。
そして――
「なんだ……?」
ブリトニーは上から落ちてくる者たちに気が付いた。
メルヴィン、ゲオルド、マルセル。形はどうであれ、これで3人と合流できる。だが。
3人が着地した後、メルヴィンはゲオルドの身体をゆする。
「ゲオルド! 返事をしろ! ゲオルド!」
その様子を見て、ユーリーはそれとなく事情を察した。
3人に近づいたユーリーが見たものは、メルヴィンの腕の中で意識を失い、胸から血を流すゲオルド。
「……嘘だろ」
マルセルは声を漏らす。
このフロアに着地していたとき。ゲオルドはすでに息を引き取っていた。




