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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ6 混乱の刑務所
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6 俺の素性

 抜け穴から射し込むうすぼんやりとした光。どうやらここから男子刑務所に繋がっているらしい。

 ユーリーが先頭に立ち、刑務所に突入する。きっと戦いは避けられない。状況次第ではあの忌まわしき能力も使うことになる。

 ユーリーは腹を括っていた。


「いくぞ」


 ユーリーに続き、クリフォード。さらにはグランツがそのあとに続く。


 隠し通路の入り口があったのは廊下。付近にはレヴァナントの残骸が転がり、混乱が続いている。

 3人が武器を構えながら辺りを見回す中で、グランツはおぞましい気配を感じ取る。

 左右から1人ずつ。この気配からしてイデア使いだろう、とグランツは確信。そして。


「構えろよ! ユーリーを狙っていると見た!」


 グランツは声を張り上げる。

 直後、左右から攻撃が飛ぶ。液体の鳥と不気味な触手。

 触手の攻撃と同時にユーリーは斧を振り下ろす。すると、斬られた触手が宙を舞い、赤い液体が地面に飛び散った。そして、ユーリーは次の攻撃に備えて斧を持ち直す。


「コソコソ隠れてねえで直接来いよ。俺が憎いんだろ?」


 ユーリーは不敵な笑みを浮かべながら言った。

 ユーリーと背中合わせの位置にいるクリフォード。彼もまた、液体の鳥を撃ち落としていた。


「俺たちを消耗させようっつったって、そうはいかねえ。早いとこ出てこい――」


 そう言いかけ、ユーリーは妙な気配を感じ取る。ユーリーだけでなく、クリフォードもグランツも。

 現れたのは囚人服を着た青年。彼はユーリーの目の前に迫り、触手で斧を絡め取る。ユーリーが抵抗しようとも、その触手は斧を離さない。しまいにはユーリーの脚に絡みつく。


「てめえに斧を振り回されては困るからなァ!」


 囚人はユーリーに向かってこう言った。

 するり。斧はユーリーの手を離れ、その囚人の手に渡る。


「――よくやった、テオ!」


 上だ。上から飛び降り、鉄パイプを振りかぶる別の囚人。彼が纏う気配はただならぬもの。おそらく、身体能力は強化されている。問題は彼のもう一つの能力。

 ユーリーは鉄パイプでの攻撃を躱す。砕け散る刑務所の柱。

 その囚人は身を翻し、再びユーリーに迫る。今度の狙いはおそらく頭。同時に、テオの操る触手がユーリーに迫る。


 そのとき。ダーツが鉄パイプを叩き落とした。

 ユーリーとクリフォードから少し離れたところに立つのはグランツ。彼の周囲にはいくつかのダーツが浮遊している。

 そのグランツの様子を見て、テオはあからさまに表情を変えた。


「お前……看守じゃなかったのかよ!?」


 と、テオ。

 グランツはにやりと笑い、テオにダーツの先端を向ける。


「答えるまでもない。ま、俺の素性を知ったら嫌でも納得するだろうな」


 再びダーツの嵐がテオ達を襲う。


「そうだろ、ジルド。お前らのボスも好き勝手してくれてんじゃねえの」


 グランツはそう言うと再びダーツを放つ。さらにユーリーを押しのけてテオらの方に突っ込んでゆく。

 距離を詰めたところでグランツはジャックナイフをその手に持った。まとわりつく触手もそれであしらい、テオの目の前に迫る。

 テオは触手を伸ばすもすべて斬り落とされ――


 テオが見たものは鋭利なジャックナイフ。


 ――これで殺されることになるだろう。彼にはおそらく慈悲などない。仮にも看守を務めていたことがあるから。


「ユーリー! お前はさっさと斧、拾えよ! ここは戦場だ!」


 グランツの張り上げる大声。混乱のフロア。テオは命乞いをしているようだったが――


 赤い血が噴き出す。グランツの服を赤く染める返り血。

 首筋に傷を入れられたテオは意識を失い、その場に倒れた。


 ユーリーはその様子を見ることなくジルドの方に向き直る。一度は斧を奪われたものの、調子は悪くない。


「何の……」


 斧の刃を向けようと、ジルドはユーリーの方に向かってくる。武器がなくとも、素手でどうにかしようと。

 そして。


 地面から現れる化け物。

 頭が3つある犬や、複数の生物が合体したような怪物。彼らが地面から続々と姿を現してくるのだ。

 敵は囚人とレヴァナントだけとは限らなかった。


「この3人を噛み殺せ。いや、食い殺せ!」


 ジルドは言った。

 怪物たちがグランツとユーリーに襲い掛かる。すると、ユーリーは無言でグランツの前に出って、斧を振るう。まず、頭が3つある犬の身体が真っ二つになった。

 怪物の身体から血は流れない。実体を失うようにして怪物は消えるのだった。不審な目で見ながら、グランツは左右から襲い来る怪物に向かってダーツを放つ。ダーツが頭部を貫通した怪物も、跡形もなく消えた。


「一撃でどうにかしねえといけないか。歯、食いしばれよ!」


 グランツは言う。

 まだまだ怪物はフロアのあちらこちらにいる。隙あらば2人――いや、クリフォードも含めた3人を食い殺そうと襲い掛かってくる。


 ユーリーも斧を握りしめ、襲い来る怪物を両断する。

 だが、きりがない。際限なく一か所から現れる怪物たちはジルドの能力由来のものだろう。能力由来のものであれば、使っている本人を斃せばどうにかなる。

 ユーリーは斧を振るいながらジルドの方を見た。


 ジルドは刑務所の奥に姿を消そうとしている。彼のもとへ向かおうにも怪物たちがその邪魔をしている。


 ――どうするか?


 ふと、クリフォードが怪物から距離を取り、ジルドに銃口を向けた。

 何度か振り返っているとはいえ、ジルドには隙があった。

 クリフォードはその隙を見逃さず、引き金に指をかける。


 銃声。

 それも一度きりではなく、何度も。当たるまで発砲しようと。

 脚、腰、背中。体中を撃ち抜かれるジルド。彼の体から噴き出すのは血液。何発もの銃弾を受け、ジルドは地面に倒れる。すると、ユーリーらの行く手を塞いでいた怪物たちが消えてゆく。


「やっぱりな」


 と、クリフォードは呟いた。

 実体のあるようでない化け物を操っていた者は消えた。ここに残るのはユーリー達と、フロアに倒れて血だまりをつくるジルドだけ。

 クリフォードは詰まっていた息を吐く。


「先に進もうか。こいつらにルナティカのことを聞くまではできなかったが。それは看守でも拷問すればなんとかなるだろ」


 このときのクリフォードはいつになく冷静だった。そのまま、無表情で人を殺せるような、そんな雰囲気だ。

 ユーリーは頷き、その先へ進む。


「ああ。俺の能力を使うことになるかもしれねえな……」


 と、ユーリー。

 この先はプリズン・ギャングの根城と言っても過言ではない。



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