表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ6 混乱の刑務所
72/136

5 看守のふりをした甲斐があった (挿絵あり)

「この先の刑務所にはプリズン・ギャングがいる。刑務所の中だってのに麻薬取引や飲酒が後を絶たないようだ」


 隠し通路。真っ暗な通路を懐中電灯で照らしながらグランツは言った。


「気を付けろよ。プリズン・ギャングはイデア能力を持った連中ばかりだ。俺たちを見れば殺しにかかるヤツだっているだろう。特にユーリー。あんたはギャングどもから恨まれてると思え」


「……恨まれているのはわかっている。デーモンボーイズのことがあったからな」


 ユーリーは答える。

 そして思い出すのはシャルムとの戦い。お互いに歩み寄ろうとできたはずだったが、ユーリーとシャルムは殺し合うことになった。その時に向けられた視線。ユーリーは忘れずにはいられなかった。


「わかっているならそれでいい。殺される……じゃねえな。殺す覚悟で行けよ」


 と、グランツは言った。


 やがて、3人の前にうすぼんやりとした光が見えてきた。ほんの少しの隙間から漏れる光が隠し通路の出口を示している。通路がつながっている先はルナティカの独房だ。

 ユーリーは足を速める。きっとこの先にルナティカがいると信じて。


「焦るなよ」


 グランツは言った。だが、懐中電灯に照らされた彼の顔も心なしか焦っているようだった。


「焦ってねえよ。急いでいるだけだぜ」


 と、ユーリー。だが、その口調にも焦りは現れていた。

 焦るのも無理はない。ルナティカを取り巻くのは絶望的な情報だろう、とユーリーは信じているのだから。そして、ユーリーはルナティカが巻き込まれたことを知らない。


 ユーリーは通路の入り口を塞いでいるものを渾身の力で押した。

 ずっ、と音を立てて塞いでいたもの――ベッドがずれる。ここから刑務所の中に入ることができる。


 ユーリーは穴をくぐり、その先に出た。ルナティカはここにいるのだろうか。

 だが、現実は非情だった。ユーリーが見たものは、もぬけの殻となった独房。ここにはだれもいない。扉の窓から見えるのは、地獄絵図。押し寄せたレヴァナントが刑務所の内部をうろついている。


「そんな……」


 ユーリーは言葉をこぼす。


「様子はどうだ――」


 ユーリーから少し遅れてやってきたクリフォードもそれとなく状況を察した。ここにルナティカはいない。逃げだしたか、もしくは別の誰かに連れ去られたか。

 独房の壁や扉が壊された形跡も、荒らされた形跡もない。ルナティカは忽然と消えていた。


「駄目だったよ。連れ去られたか逃げ出したか。とはいえ、あいつが考えなしに逃げ出すとは思えねえ。誰かの介入があっただろうな」


 と、ユーリー。


 グランツも独房に到着する。2人と部屋の様子を見て、現状を把握する。


「やっぱりいなかったか。ルナティカはどこにいると思う?」


 グランツは言う。


「逃げだしたわけではないだろうな。誰かが連れ去ったとみているが、隠し通路を知っていそうなヤツでルナティカを連れ去ったとか、あるか? 俺はその可能性があると思う」


「知っているヤツなら、俺たちのほかにプリズン・ギャングの連中だな。そいつらと接触してみるか? プリズン・ギャングの連中はトロイ・インコグニートの弱みを握ろうとルナティカの接触を試みたって話だ。この騒ぎに乗じて接触している可能性だってあり得る」


 グランツの口から出たプリズン・ギャングという言葉。ユーリーは無意識のうちに拳を握りしめていた。


「あんまりかかわりたくはなかったが、ルナティカのためなら仕方ねえ。ここから行けるのか?」


「行ける。あの隠し通路を通って、男子刑務所の方に侵入する。内部のつくりはわかっているさ」


 と、グランツは言う。そして。


「目的は違うが半年の間、看守のふりをした甲斐があった」


 グランツにも彼の事情がある。何のために看守のふりをしていたのかはユーリーにとって知ったことではない。が、目的は一致した。

 3人は男子刑務所を目指す。




 路地に身をひそめる男女。うち1人はプリズン・ギャング、もう1人はタリスマンの元参謀。


「どこに連れていく気? タリスマン支部の連中に見つかったら、最悪私は殺されるんだけど」


 フィルの陰に隠れながらルナティカは言った。

 その顔には不安が見え隠れしていたが、あからさまにフィルを警戒している様子はない。仮に警戒していたとしても、それを隠しているのだろう。


「そりゃ、タリスマンの連中でもデマだと決めつけたあの場所だ。廃棄所横の吸血鬼屋敷ってな」


 と、フィルは答える。

 ルナティカは目を丸くし、口角を上げた。


「いいね、そこ。私は書類上でしか知らなかったけど、本当にあるなんて。で、吸血鬼がいたらどうする? 私はその、考えることはできても戦うことはできない」


「考えるだけで十分だぜ。つうか、交渉ができるならそれを頼みたいところだ」


 フィルは言った。


 交渉。ルナティカが得意としていることの1つだった。特に、刑務所との連携などで――尤も、それは後にルナティカに牙をむくことになったのだが。


「割に合わない気がするけど、まあそれでいいか。断れば安全な場所がなくなるわけだから」


 と、ルナティカ。

 今の彼女はいつも以上に冷静だった。いや、今に限ったことでもない。刑務所にいるときから、ずっと冷静だ。彼女はフィルが思う以上に肝が据わっている。


 2人は辺りの様子を見ながら廃棄所に向かう。

 途中、ストリート・ギャングらしき人物などを見かけたが、何かがあるというわけでもない。タリスマン支部の構成員も。外部からタリスマンにやってきた対策チームのメンバーも。




「ここが吸血鬼屋敷か」


 廃棄所のすぐそばにある屋敷を目にして、フィルは言った。

 吸血鬼屋敷は蔦の絡みついた洋館。フィルはそのドアに手をかけて開く。かび臭い匂いが洋館の中から漂ってきた。


挿絵(By みてみん)


「そうだよね。吸血鬼って日光に当たれないからこんなところで過ごすんだよね」


 ルナティカは言う。


「悪く言うなよ? いや、それにしても趣味悪ィな。住んでいた吸血鬼がどういうヤツか気になるが……」


 多分戦いは避けられない。フィルは腹を括っていた。


次回からしばらく刑務所パートを挟みます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ