表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ5 不穏分子たち
54/136

1 不幸であることが

ステージ5開始です。

 ――僕は結局受け入れられない。でも、それでいい。不遇で不幸であることが、僕のアイデンティティだから。


 意識を取り戻したダリルはダウンタウンをうろついていた。

 彼のいるダウンタウン。通りにはレヴァナントの残骸や、かつての仲間の遺体が転がっていた。はっきりいって非常に痛ましい光景ではあるが、ダリルはそれから目をそらした。

 時間は夜中3時前。破壊されるか電気の供給が止められた街灯の光はなく、かわりに付近のアパートから漏れる光が周囲を照らしていた。

 ここで戦いがあったことはダリルにも想像できる。それを物語るのはやはり死体。ほとんどの死体から首が消えていたこともあり、何かがあったのだろうとダリルには想像できた。


 そんなとき。


「ダリル。ダリル! 気づいているか!?」


 ダウンタウンの路地から、ダリルもよく知る人物の声がした。


「僕に――」


 ダリルはその声の主を拒絶しようとした。だが。


「知ったことか! 来い!」


 声の主はシャルム。ダリルが路地に目をやると、そこには返り血を浴びたシャルムがいた。隣にいるのは赤髪の男――アンディー・インソムニア。

 シャルムは路地の近くを見回し、ダリルのいるメインストリートに出た。

 口元はガスマスクで隠れているが、その目は確かにダリルを信用しているような目だ。


 ――ここまで言われてしまっては折れるしかない。


「わかりましたよ……」


 ダリルは渋々と路地に入る。


「簡単に今の状況を説明すると、俺たちデーモンボーイズは実質壊滅していることになる。アンディーが力を貸してくれるとはいえ、4人でどうなるのだということだが」


「4人?」


 ダリルは聞き返す。

 ボスはいないとして、シャルム、ダニエル、メルヴィン、アンディー、そしてダリルがいれば5人のはずだ。

 そう、まだダリルもこれまでに起きたことを知らない。


「4人だ。廃工場でダニエルが殺されたからな。酷い最期だった」


 と、シャルム。

 感情を圧し殺しているようだったが、彼のなかには深い悲しみと怒りがある。

 ダニエルはシャルムにとって、最も大切な人物だった。同じ場所で生まれ育ち、幼少期からの付き合いがあった。だが、お互いに貧しく、まともに暮らすことができなかったということでストリート・ギャングに落ちた。

 長い間共に過ごしたというだけあり、2人の絆は並大抵のものではない。まさに、兄弟だろう。


「殺されたんですね。それで、メルヴィンは?」


 ダリルは尋ねた。


「アジトにいるんじゃないか? 俺と入れ替わりでアジトに戻るとか言っていたが」


「そうですか。あと、彼は……」


 ダリルはシャルムの隣にいる男に目をやった。中世や近世の貴族のような、時代錯誤な服装の男、アンディー。彼はどこか不気味で、ダリルに無意識の恐怖感を植え付けていた。


「アンディー・インソムニア。この町に伝わる吸血鬼の都市伝説があるが、その一人が僕だ」


 と、アンディーは名乗る。

 すると、ダリルの眉がぴくりと動く。


「吸血鬼……実在したんですね。噂では散々聞きましたけど、本当に見ることになるとは」


 ダリルはそう言いながらアンディーをまじまじと見る。外見は普通の人間と変わらない。特徴があるとすれば、赤い瞳。アルビノのようではあるが、肌の色からしてアルビノではない。

 だが、このアンディーに日の光を当てれば1時間と経たないうちに灰になる。彼はその性質を持つがゆえに人間社会から距離を置き、廃棄所の前の廃屋にて暮らしていた。それがいつしか都市伝説となっていた。


「彼も確かに吸血鬼だが、俺たちのボスも吸血鬼だったぞ」


 ここでシャルムが口を挟む。


「アンディーと険悪でな、名前を出そうとは思わないがとにかく凄い方だ」


 シャルムがあえて名前を出さないあたり、何かあったに違いない。ダリルは過去の出来事をできる限り予想してみた。例えば、裏切り。だが、ダリルはすぐにそのことを深く考えるのをやめた。

 デーモンボーイズのメンバーがたびたび口にする『ボス』。その人物が一体誰なのか。それはダリルに知る由もない。


「いや、これ以上話すのはやめよう。アジトに行くぞ」


 シャルムは話を切り上げ、2人を連れてアジトへ向かった。




 デーモンボーイズのアジト。鍵はすでに開いていた。メルヴィンがいるのだろうか、と勘繰りながらシャルムは中に入る。

 ドアのすぐそばにいたのは黒猫。シャルムが気まぐれで拾い、このアジトで飼っている猫だ。


「戻ったか」


 アジトの奥からメルヴィンの声が響く。シャルムの後ろにいたダリルはほんの少しだけ恐怖を覚えた。

 ダリルは一度、メルヴィンから見捨てられている。彼と会うことはダリルとしても気が引けることだったが――


「ああ。前に俺とダニエルが会っていたアンディー・インソムニアもつれてきた」


 と、シャルム。


「彼か。それと、俺が見限ったはずのダリル。あんたは見捨てないんだな?」


「ああ。仲間……兄弟だろう? 兄弟を見捨てるようなこと、あってはならないと思うぞ」


 シャルムは答えた。

 メルヴィンは「やれやれ」と言って、アジトの地下に姿を消した。


「シャル……リーダー。僕、まだここにいてもいいんでしょうか?」


 ダリルは言う。シャルムには認められているとはいえ、メルヴィンとは気まずいままだ。アンディーは初対面のうえ、ダリルも恐怖を植え付けられるほど。今、ダリルがここで信頼できるのはシャルム1人だろう。


「何を言っているんだ。当然だろう。俺たちは兄弟だからな」


 シャルムは言った。


「さて。これからの俺たちだが……タリスマン支部をどうにかすることだけは決まっている。ダニエルが殺された今、仇くらいは討ちたいところだ。それと、ユーリー・クライネフ達にも、な」


 リーダーはタリスマン支部だけでなく――かつてタリスマン支部に所属していたユーリーや、その仲間に対しても思うところがあった。主に恨みとして。

 事実、ユーリーらはストリート・ギャングを何人も殺している。彼らに報いを与えるべきだ、とシャルムは考えていた。


 そして、メルヴィン。彼の心は穏やかではなかった。

 この4人でもひときわ異質な彼は、再び己の行動について考えなくてはならなかった。


 因縁のある相手はいたるところにいる。特に、メルヴィンにとってはそうだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ