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7 繰り返される未来

 時をループさせる者は必ずいる。アディナと別れた後のブリトニーは携帯端末に電磁波を流し込み、回線への干渉を試みていた。が、そこからループさせた人物を割り出すことはできていない。


「とにかく、ループさせるやつが電磁波と関係ありげなことはわかったぜ。問題はどうやって見つけ出すかってことだな。せめて、電子のやり取りとかがもっと利用されていれば楽なんだがなァ」


 ブリトニーは呟いた。

 アディナとトミーの戦闘が行われている場所から少し離れた場所。また違った通りで、ブリトニーはループさせる能力の使い手を探していた。

 そして。ブリトニーが懸念していたことは自分自身がその使い手から攻撃されること。能力ではめてくるのだろうか、それとも――


 ブリトニーの後ろから忍び寄る殺気。経験の浅いブリトニーでもわかるほどの殺気であったが。

 相手はそれほど経験を積んでいるとは思えない。が、彼にある意志はとてつもなく強い。必ず仕留める、必ず生還するという意志を持っている。魔物ハンターとは違った方向で戦いなれた人物だろう。ブリトニーは向き直り、それらしき人物――銃口を向けた男に向けて指さした。


「……あんた、強いだろ。アディナが戦っている方もそうだが、あんただって相当なやり手だと見た。昨日のあいつとは大違いだぜ」


 ブリトニーがそう言った瞬間、銃口を向けた男――エリオットはアサルトライフルを手放した。肝心のアサルトライフルはドロドロに融けている。

 エリオットは怪訝な顔でブリトニーを見た。


「お前、今何をした? ただ喋っていたわけじゃないだろう」


「ふっ、ご名答だ。ついでに言えば、あたしの言葉はただお前の意識をそらすためのものに過ぎなかったわけだ!」


 ――問題はこいつがどこまでブラフに乗ってくれるかどうか。正面から殴り合ったところであたしに勝ち目があるとは思えねえ。


「そうか……」


 ブリトニーはこの一瞬の殺気を感じ取れなかった。これが経験の差ということになるのか。


 気が付けば、ブリトニーの目の前にエリオットはいた。アサルトライフルは元に戻り、銃口を彼女に向けて。

 ブリトニーはその瞬間に気づく。また、ループした。


 ――今何が起きたかどうかは私もよくわかったぜ。アディナにも認識できないみたいだったが、どうやら私は違うらしい。


 慢心だった。アディナがもう一度繰り返されるだろうと考えていた出来事はエリオットによって塗り替えられる。

 エリオットはアサルトライフルが融かされる前に引き金を引いていた。


「そんな……」


「見えているのはお前だけじゃない。認識できていれば繰り返される未来なんて見えているってわけだ」


 その言葉が発せられたとき。ブリトニーの右肩に穴があく。ダラダラと血が流れ出るが、彼女は戦意を喪失したわけではなかった。

 ブリトニーの周囲に展開されるイデア。これが意味するものとは――


「だろうな」


 ブリトニーが放つ閃光。

 彼女の操る電磁波は波長を少し変えてしまえば光にもなる。その光はエリオットの視力を一時的に奪った。

 ブリトニーはその隙を見て路地裏に身をひそめた。狙うは不意打ち。肩の傷は痛むものの、ここで引くわけにはいかないのだ。


「……アディナ。あんたは大丈夫だと信じてるぜ」


 息を殺しながらブリトニーは言った。

 が――


 トミーの遺体の近くに転がる輪切りにされた女の遺体。黒い肌。この特徴を備えるのはアディナしかいない。

 ブリトニーは思わず口を押えた。彼女の知らない場所で、アディナは死んでいた。否、殺された。


 ――落ち着け。ここで焦ったら……

 落ち着けるわけがない。ブリトニーは己の鼓動を感じながら敵の動きを待っていた。




 エリオットの視力が少しずつ回復する。彼の視界にブリトニーはいない。


 ――案の定どこかに消えたか。時をループさせてもいいが……


 彼が感じ取る殺気。イデアを展開する者の放つ気配。

 来る。


 お互いがお互いの存在を察知する。

 早かったのはブリトニー。エリオットの姿を捕らえるなり、左手の人差し指にエネルギーを溜め、放つ。

 不可視の攻撃はいち早くエリオットの体を焼き焦がす。

 ひどい火傷を負い、服や体の一部が燃える。熱と痛みを覚えながらエリオットはさらに――


 路地裏の先に倒れていたのはトミーだった。内臓を露出させ、その身と服を血で濡らして倒れていた。その傷で彼は助からないだろう。


 ――今、俺にできることは何だ? 目の前の女は俺の能力も見破ったうえに、俺の体も焼いた。はっきりいって今の俺に勝ち目はあるだろうか。


 アサルトライフルの銃口は融けている。もはやそこから銃弾を放つこともできないだろう。

 エリオットが考えたことは、時間のループだった。


 ――もう一度やり直すことができるのならば。トミーと別れたそのときからやり直せるのなら。兄弟のために命をかけて何が悪い。


 ぼろぼろになったエリオットが展開するイデア。サイバー空間を構成するような蛍光グリーンの光が展開される。それが蛍光ブルーに輝いたとき――


 時は繰り返される。

 彼にできることは『やり直す』こと。

 悪い結果にたどり着いたとしても、最良の結果にたどり着くことができるのならば。


 ブリトニーはそれが何を意味するのか、即座に理解した。


 ――だったら、あたしのやることは記憶の保持だ。一度繰り返されてもいいように、あたしの記憶を、ループした先のあたしに引き継げばいい。記憶も脳の電気信号だからな。


 ブリトニーの銃創とエリオットの火傷が治癒してゆく。

 2人の意識の外で現在が過去につながり、円環となる。

 ループする世界で。何も知らない者たちは、すべてを忘れて同じことを繰り返す。

 繰り返しを知る者はそれぞれの望む未来に向けて動き出す。




 アディナはバイクを止めた。


「ワイヤー使いには気を付けな。どうやら何でも切れるみたいだ。下手すれば、あんたの首も落とされるかもしれないぜ。ワイヤーにだけは絶対に触れるな」


 バイクを降りながらブリトニーは言う。


「ええ。何が起きているのかわからないが」


 と、アディナ。

 何も知らない彼女をよそに、ブリトニーはいずれ巡り合うエリオットとどう戦うかを考えていた。彼もまた、一巡目を知っているから。



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