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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ1 対策チーム、結成
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3 戦力が欲しい

 ディレインの町にて起きた、ユーリーとスティーヴンの闘い。ユーリーがスティーヴンを殺す様子を陰から見ていた者も近くにはいた。


 彼は藍色の髪をなびかせ、ユーリーの後を追った。さらに彼の後をついてゆく白髪の白いコートを着た男。二人はユーリーを追っていた。




 傷口にイデアを展開しているとはいえ、ユーリーは疲労していた。わずかな携帯食料と水だけで1日あまりを過ごした疲労と空腹は、いくらユーリーでも耐え難かった。


 ユーリーは近くにあったカフェに入り、ストレートティーとサンドイッチを頼んで席に座った。


 ――やっと落ち着くことができた。貨物列車の中でも休むことはできると思っていたが、行き先がわからないことで不安もあった。それに比べて今は。


 ユーリーはストレートティーを口にした。口の中に紅茶の味が染み込んだ。

 36時間ぶりに気が休まるとき。だが、その時間にも邪魔が入り――


「ちょっと失礼するよ」


 白髪に白衣の眼鏡をかけた男が言った。年齢にして20代後半のようだが、その表情には子供のような好奇心が見え隠れしていた。

 彼とともにやってきたのは、藍色の髪で傷だらけの顔をした男。眼鏡の男とは対照的に、彼はどこか達観した雰囲気を醸し出していた。

 彼らはなぜ、見ず知らずのユーリーのところにやってきたのだろうか。


 ユーリーは自身の許可もなく目の前に座ってきた男を睨みつけた。


「てめえ、勝手にこんなところに座ってきやがって……」


「君がユーリー・クライネフで間違いないのかな? 」


 眼鏡の男は言った。

 なぜ彼は初対面のはずのユーリーの名前と顔を知っているのか。考えられる可能性として、眼鏡の男は鮮血の夜明団の関係者で、どこからか名簿でも入手した。もしくは――


「ひどいなあ。そう身構えないでよ。俺は君を探していただけだというのに。タリスマン支部に関係ある人物として」


 眼鏡の男――ヘンリク・フォン・ホーエンハイムがそう言うと、ユーリーはぴくりと動いた。

 よりによって、今口に出してほしくないと感じていたことを。タリスマン支部など――


「ユーリー・クライネフで間違いはないが……なあ。あんたも俺を追っていたのか?支部長の命令でも受けていたのか? 」


「違うよ。単純に協力してほしいだけだ。街中でイデア使いを簡単に斃していたじゃないか」


 ヘンリクは言った。


「俺からも説明する。タリスマンの町付近にスラム街があるが、そこで『ゾンビ』なるものが人間を襲う事件があってな。インコグニート支部長は連絡もなく、俺的には少しでも戦力が欲しい。スラム街の『ゾンビ』を抑えられる程度の、な。タリスマン支部所属だった君なら大丈夫だろう? 」


 藍色の髪の男――織部零がヘンリクの言葉に付け加えた。

 それを聞いていたユーリーは愕然とした。タリスマンの町は、ユーリーがつい2日前までいたところ。そして、『ゾンビ』の発生源も。確定したというわけではないが、ユーリーはあらかた見当がついていた。問題は、その発生源が誰の能力であるか。


「待った。あの野郎、一体どこまでやれば気が済むんだ……いえ、協力しますよ。お2人の名前は」


 ユーリーは激情を抑えながら言った。その原因はゾンビと関係のあるであろう人物にあった。『彼』の振りかざす、行き過ぎた正義。法で裁けない部分に無理やり手を入れる、過激な考え。ユーリーが知るだけでも『彼』の過激な行動は少なくなかった。


「ヘンリク・フォン・ホーエンハイム。錬金術師をやっている」


「織部零だ。フリーの魔物ハンターだが、今は訳あって彼の護衛をしている」


 激情を抑えるユーリーに向かって2人は交互に名乗る。


「なるほど。同業者ってわけか。ヘンリク、多分俺一人では不十分だと思うから、鮮血の夜明団の本部に立ち入ることもお勧めするぜ。本部ならバケモンみたいな魔物ハンターもいる」


 と、ユーリーは言った。


「あー、そうだよね!俺も同じだ!というわけで、君の額の傷を治療したら、そうしよう。額の傷。撃たれて平気なわけがないだろう? 」


 ヘンリクは戦いの一部始終を見ていたらしい。スティーヴンがユーリーに銃口を向けるその瞬間も、弾丸がユーリーの額を削るその瞬間も。

 そして、ユーリーは傷口に無理やりイデアを展開して無傷のふりをしている。継続時間が過ぎれば、彼は――


「ユーリー。治療は受けてくれ。俺からも頼む。こいつは無礼な男だが、錬金術の腕はいい」


 零も言った。


「ああ。そこまで言うならな。借りを作ってしまったようで気分はよくないが」


 ヘンリクと零の圧に押され、ユーリーは渋々納得した。




 カフェを出たユーリーはヘンリクの案内で鮮血の夜明団の本部に連れていかれた。

 ヘンリクは鮮血の夜明団お抱えの錬金術師でもあるようで、彼が重傷者の治療に当たっているとのこと。その重傷者はユーリーも例外ではなかった。イデアで無理に傷をふさぎ、体組織の代わりにしていただけであり、本来であれば命にかかわる重傷だ。


 本部の建物にある医務室のベッドに横になり、ユーリーはイデアの展開を解除した。


 ――痛みがユーリーを襲う。体内に展開したイデアの鎮痛作用は相当強いらしく、解除した瞬間の痛みは今までのどの痛みよりも激しかった。


「よーし、そのまま動くなよ。痛みで失神してくれた方が助かるんだがなあ。君、さては相当メンタル強いな?」


「うるせえ。その辺に深入りするんじゃねえ、ぶっ殺すぞ」


「君さ、命が誰の手にかかってるかわかっているのかな? 立場をわきまえた方がいいよ」


 悪態をつくユーリーの顔に触れながら言うヘンリク。これから彼が何をするのか、ユーリーはおおざっぱではあるが察していた。だが、動けない。まな板の鯉とはまさにこのことだろう。


「さて、始めようか」


 ヘンリクの声とともにユーリーの口元にあてられるマスク。そこから麻酔が流れ込み、ユーリーは意識を手放した。


「ああ、零。会長が招集しているみたいだぞ」


「わかっている。俺は鮮血の夜明団の人間ではないがお前の代理として参加させてもらう。ヘンリクがかかわっているんだ。ゾンビとやらのことだろう」


 零はそう言って医務室を出て、会長のいる場所に向かった。そこに招集されたのは各地の支部と、専門の下部組織のメンバー。


「会議を始めようか」


 白いスーツをその身に纏った会長は言った。



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