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3 時は繰り返される

 本拠からほど近いダウンタウン。刑務所の方へ向かうためにはダウンタウンを通り抜ける必要があった。ひっそりとしたダウンタウンにはちらほらと人はいたものの、昨日ブリトニー達が見たような暴徒はいない。

 住人からしてみれば至って普通のこのダウンタウン。だが、その町にも異変は現れていた。


 ――おかしい。さっきから同じ場所をぐるぐると回っているようだ。あるところで、無理矢理戻されているように。


 ブリトニーは違和感を覚えた。彼女が乗るバイクは方向、目印、距離。すべて地図の通りに進んでいたが、一向にたどり着く気配がない。まるで、同じ場所で同じことを繰り返しているような。彼女にとっても妙な感覚だった。

 バイクを運転するアディナも異変には気づいていた。


「あの看板、さっきも見なかったか?」


 と、ブリトニー。やはり、違和感を口にしたくなったのだろう。


「見た。とりあえず、早く合流地点に行かないとゲオルドたちを待たせてしまう」


 前の様子を見ながらアディナは言った。


 2人が通り抜ける場所はダウンタウンの通り。汚された色とりどりの看板と、住人やストリート・ギャングによる落書きが町を彩っている。目印になるようなものはいくらでもあった。特徴的なデザインの看板など。

 ブリトニーが目印にしていた看板は、また同じところに現れる。それだけではない。看板があるところにいた猫はいつも同じときに去ってゆく。その猫は前に見たものと同じ、黒猫。


 ――不吉だ。いや、そんなことよりも。


「アディナ! あたしら、何かの能力にはめられている!」


 メインストリートを走り抜けるバイクの後部座席で、ブリトニーは言う。


「でしょうね。ループさせる系統の能力だということは私にもわかる。バイクをとめてみようか?」


 アディナはそう言った。が、バイクのエンジンは止まらない。いや、止まったとしてもまた動き出す。止まるようなことがあれば、時間がループする空間の一部になるのだろう。

 動いていなければならないということはアディナも理解した。問題はこれをいつまで続けるのか。アディナはバイクを運転する間、攻撃することもできない。脚を地面につけることもできないから。


「動きながらでも攻撃と索敵はできる?」


 ハンドルを握るアディナは言った。


「索敵は無理だな。でも、攻撃はできる。問題は使い手が見つかるかどうかなんだけど。ゲオルドに連絡してみようか?」


「ええ、頼む。私は、ここで起きていることを見ておく」


 アディナが運転するバイクの後部座席。ブリトニーはショルダーバッグから携帯端末を取り出して、ゲオルドに電話をかける。

 だが。


「嘘……」


 ノイズまみれのコール音。混じるのはゲオルドではない男の声。ブリトニーが理解できない言語で呟かれる声は恐怖を掻き立てる。

 ゲオルドに電話はつながらない。


「どう?」


 と、アディナは尋ねる。


「つながらないな。なんというか、電波もつながらない場所に閉じ込められたような気もする」


 ブリトニーは答えた。

 この町――この日の町はどこかおかしい。

 ブリトニーがわかったのは、ここは正常な空間ではないということ。おそらく使い手はノイズに混じった謎の言語を囁く男であるということ。


 ふと、ブリトニーは携帯端末と、その電波がつながったその先のことを考えた。自分の能力なら、回線に干渉して敵にたどり着けるのではないかと。


 やってみる価値はある。ブリトニーはアディナの後ろでイデアを展開し、電磁波を携帯端末に流し込む。


「あたしはここだ。隠れてねえで出てきな、陰湿野郎」


 携帯端末に向かって言葉を放つブリトニー。右手はバイクにつかまっている。アディナが気を使っているおかげか、振り落とされるほどではない。


 電磁波が携帯端末に流し込まれ、回線に干渉する。ノイズだらけの声は少しずつ明瞭になってゆく。囁くような、警告するような、呪文を唱えるような。

 男の声は不気味ではあるものの、心地よくもあった。


Die() Ze()it ()wir()d w()iederholt(される)……』


 その声はブリトニーの不安を大きくした。理解できない言葉。それが理由ではない。言葉そのものが呪文になっているようだった。

 ブリトニーは携帯端末を持っていた左手から、電磁波を放つ。たとえ携帯端末が壊れても。この状況から抜け出すことができれば――


 ループする間隔は変わっていた。看板の近くには猫がいなかった。少しずつだが、ブリトニーのしたことも意味をなしてきたらしい。


「ループは少しずつずれてきている。うまく干渉できれば、もしかしたら……!」


 と、アディナは言う。

 バイクを運転しているのだから、周りの様子はよく見えているのだろう。そして、細かな異変にも気づいていたようだった。看板の近くの猫も、人通りも。

 これからが本番だ。


「さっきも言ったけど、攻撃はあんたに任せた。そうね、その端末越しに声の主を攻撃できる?」


「任せな。こういうのに干渉するのは得意だから」


 ブリトニーは言った。

 彼女はかつて、その能力で携帯端末越しに吸血鬼の居場所をつきとめたことがある。携帯端末で声などが漏れてしまえば、彼女は容易く攻略するだろう。


『見つけることはできてもたどり着くことはさせるかよ』


 声の主――呪文のようなものを口にしていた男はブリトニーに聞こえるように、はっきりと言った。



能力の一部を見破ったところで二人が勝ったと断定できる相手ではないです。

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