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1 逃げたいのなら逃げればいい

ステージ4です。このパートにはユーリーがあまり登場せず、ブリトニーとダリルが実質的な主人公となります。

 本拠に集う5人。ユーリーは郊外のホテルに移され、クリフォードも彼に付き添っている。

 沈んだ空気の中、口を開くゲオルド。


「俺がすでに報告していたレヴァナントの件。会長は黒幕のトロイ・インコグニートを確保しろと言っていた。女吸血鬼のことは放っておけとのことだが、彼女をなんとかしなければ会長は殺される」


「会長は別に大丈夫じゃないのか? なんでも、吸血鬼の天敵だと聞いている」


 と、アディナは言った。


「俺たちが見た吸血鬼が、正体不明の力を使っていたとしても、か?」


 珍しくゲオルドはアディナに反論した。

 傍らでマルセルも頷いていた。何人もの吸血鬼を斃している彼でさえ警戒する女吸血鬼――アリスには、やはり何かがある。


「吸血鬼は吸血鬼の血液や肉を摂取すると力を増すという。あの女『処刑人』は吸血鬼の血も摂取しているだろう。吸血鬼だろうと法律は適用されるからな」


 と、マルセルも続けた。

 彼は吸血鬼を狩る魔物ハンター。当然ながら、吸血鬼についてはこの中で最もよく知っていた。

 もし『処刑人』が吸血鬼も人間と同じように処罰していたら。もしこの町の刑務所に吸血鬼がいたのなら。『処刑人』はマルセルが思う以上に強くなるだろう。それに加えて、地下通路で体験した正体不明の能力。


 ――『処刑人』を会長に近づけてはならない。


「これ以降は、刑務所近くを見て回ろうと思う。あわよくば、『処刑人』を斃す。彼女は明確にトロイ・インコグニートの仲間だというそうだ」


「強敵がそろってきたわけね。面白そうなことになってきたぜ」


 本拠の椅子に座っていたブリトニーは言った。だが、彼女の目はいつものように笑っているということでもない。彼女もどうやら真剣らしい。




 夜のタリスマンの町、ダウンタウンから少し離れた場所にある刑務所。その付近をうろつくのはメルヴィンとダリルだった。

 ダリルは今までに訪れる気にもなれなかった場所に連れてこられ、戸惑っていた。刑務所は悪いことをした者を閉じ込める場所だと教えられていたのだから。

 メルヴィンは刑務所の敷地を目の前にして言った。


「ここに俺たちのボスがいるらしい」


 ボス。ダリルが先日から何度か聞いていた言葉。ストリート・ギャングのデーモンボーイズのトップに当たる人物のことをさしている。


「でも、姿を消したって話ですよね。それか、中での生活に満足しているか。刑務所の中にもギャングっているんですよね」


「知ってたのか。まあ、刑務所のギャング(プリズン・ギャング)が今何やってるかは知ったことじゃない。話によれば、俺たちより金があるとかどうとか。麻薬取引だとかで稼いでいるみたいだな」


 と、メルヴィンは言った。

 彼の口ぶりを不審がるダリル。メルヴィンはリーダーの2人より物事をよく知らないらしい。だが、妙に人生を達観しており、リーダーの2人いわく人を見る目があるらしい。それが年齢ゆえか、そうではないのか。

 ふと、メルヴィンは何かの気配を感じ取る。この悍ましさは――


「ふむ、君たちは囚人じゃないのか。そうだよねえ。この近くは本来、見回りが強化されている」


 女の声だった。

 夜の闇から現れたのは銀髪の女。その髪は肩甲骨より少し下くらいの長さ、服装は黒のゴシックロリィタ。だが、特筆すべきはその目の色だ。

 彼女の目は月に照らされて紅く輝いた。


「吸血鬼ですね……」


 ダリルは声を漏らす。


「ご名答。坊やは裏のことに詳しかったりするのかい? プリズン・ギャングや吸血鬼について知っていることがあるなんて」


 女吸血鬼アリス・アッカーソンは言った。

 半分闇に溶け込んだような顔は笑っていた。ダリルとメルヴィンを品定めしているようにも見える。


 吸血鬼を見たことがなかったメルヴィンはその恐ろしさをかみしめていた。死線を乗り越えても。何人殺しても。彼女には決して太刀打ちできない。捕食者を目の前にした被食者のように。


「ええ、わかりますよ。この町がもうすぐ終わることだって。あなたもわかりますか?」


 吸血鬼を目の前にして恐怖を抱くメルヴィンとは対照的にダリルは平然とアリスに言う。


「終わる?」


「終わるんですよ……町に放たれたアンデッド。彼らが住人たちを襲い、今日は誰かの手で住人の一部が暴徒と化したらしい。だからこの町が終わるのも時間の問題。どうせ終わりを見届けるなら――」


「それは違うね」


 アリスはダリルの言葉を遮った。苦し紛れの否定ではなく、彼女には明確な根拠があるようだった。


「考えてみればいい。町の危険分子を消しているトロイがこの町を終わらせると思うかい? もっと面白いことが起きるはずだ。それが嫌ならば」


 アリスの顔つきが変わる。余裕を保ったままではあるが、彼女はそれと同時に殺気までも放ち始めた。そして、彼女の周囲に浮かぶ時計の文字盤。


「逃げたいのなら逃げればいい。死にたいのなら殺してやろう。まだその時ではないのだから、選択権はお前たちに投げておくよ。さあ、選びな」


 アリスには理性がある。確かに圧倒的な強さを誇る彼女であったが、その強さを無条件に振るうようなことはしない。もし振るうのであれば――


 2人の決断を待つ女吸血鬼。彼女を目の前にして、ダリルはイデアを展開しようとした。が、その直前。メルヴィンはダリルの左手を掴んで走り出した。


「離してください! あの女は……!」


「レベルが違いすぎる! 人間のレベルなんて超えている! しかも、条件がよくない!」


 抵抗するダリルを抑え込み、メルヴィンはとにかく走る。

 その姿を見ながらアリスは展開していたものを消す。


「よくわかっているじゃないか。身の程をわきまえた人間は好きだよ」


 と、アリスは言った。



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