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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ3 デーモンボーイズ
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12 結論からいけばそれはノーだ

「トロイ・インコグニートの能力から教えてあげようか」


 地下のアリスの部屋――処刑室に彼女の声が響く。

 アリスは持っていた死刑囚の遺体を放り投げ、言葉をつづけた。


「ユーリーのヤツはトロイが空間を弄る人だと思っているだろう? 結論からいけば、それはノーだ。トロイは空間なんて操れない。彼の能力は人間や死体をアンデッドにする能力だよ」


 いきなり核心に迫る答えだった。

 これが本当であれば、トロイが本当に黒幕ということになる。彼を捕らえるか殺してしまえば、レヴェナントが増えることはないだろう。


「つまり、トロイ・インコグニートを殺せばある程度は解決するということか?」


 と、ゲオルド。


「そういうことだね。まあ、ヤツを今殺したところで損失は大きいだろうね。もしそんなことがあれば、私が黙っていないしね。これでも私はトロイ側の人間だよ。今はそうすることはないが、もしトロイを殺そうものなら。私が刑務所の中の人間を全員殺し、次はシオン・ランバートを殺しに行く。私ならそれのどちらもできる」


 その場の空気が凍り付く。

 アリスの紅い瞳は火山にたたえられる溶岩のよう。その瞳がじっとゲオルドを見つめていた。

 いずれ敵となる彼女。言葉では確実に2人を脅しておきながらも、彼女は自分が不利になるであろう情報を伝えるのだった。マルセルにはその意図がわからない。


「ひとまず、トロイ側の人間でかつ、ヤツを半ば裏切っているような私に言わせてもらえば。先に刑務所を落とすことをお勧めする。私がいるがね」


 と、アリスは言ってその顔に笑みを浮かべた。


「そうか。だったらここでお前を殺しておけばいいな。吸血鬼は俺の敵」


 マルセルはクロスボウに光の魔法を込め、アリスに向けた。光り輝く銀のボルトがアリスの顔を照らし出す。


「言うと思ったよ。全く、これだから吸血鬼差別者は」


 アリスも戦闘態勢に入ったようで、彼女の周りにイデアが展開される。ビジョンは時計の文字盤。彼女が手に取るのは、投げ斧。


 ――光の魔法を使われようが、敵が2人だろうが関係ない。これで2人の頭を潰す。


 ゲオルドもアリスの考えを察し銃を抜く。

 先に飛び道具を放った方が勝つ。クロスボウか。投げ斧か。銃か。


「な……」


 アリスの両目から血が噴き出す。右目はぼろぼろと崩れながら、血が灰となる。左目を貫いたのは銃弾だ。

 そしてアリスの能力がかけられる。近くの証明の揺らぎも、ゲオルドとマルセルの動きも、空気の流れも。この世のすべてが『遅く』なる。


 アリスは、目を潰されていた。せっかく有利な方向に運ぶことのできる力があっても。

 視界が血に染まり、再生もおぼつかない。アリスはそんな中で、斧を投げた。当たることを願って。

 斧は本来の速さで宙を舞う。が、その斧がゲオルドとマルセルをとらえることはなかった。


 すべての速さが、元に戻る。


「逃げるぞ!」


 ゲオルドは言う。

 アリスには勝てない。マルセルもそれはわかっていた。が。彼は逃げる前にアリスにクロスボウを向けた。


「……そんな」


 アリスの再生しかけた右目に命中する光のボルト。彼女は、再び視力を失った。

 一方のマルセルは踵を返し、ゲオルドの後を追う。今は逃げる。だが、いずれアリスを斃さなくてはならない。マルセルの魔物ハンターとしてのプライドが、そう囁いていた。

 今は逃げる。この地下道を抜けて。

 アリスの両目が再生するまで。再び投げ斧が2人を襲う前に。2人は地下道を走り抜ける。


 2人は地下の一本道を抜け、教会の壊れたドアから地上に出た。


「ゲオルドさん。なぜ逃げなくてはならなかったんですか」


 ふと、マルセルは呟いた。


「生きて任務を成し遂げるためだ。そもそも、あの何があるかもわからない場所であの女吸血鬼を相手に戦うつもりだったのか?」


「それは……」


 歯痒い思いを噛み殺しながら、マルセルは壊れたドアを見た。そこから上がってこようとする者はいない。


「プライドよりも命を大切にしてくれ」


 ゲオルドはそれだけを口にすると、拳銃の入っていない方のホルスターから端末を出した。他の4人と連絡を取るのだろう。


「アディナか? 俺だ。さっき、トロイ・インコグニートに関係ある人物と接触した。これからの方針についての参考にしたいので、詳しくは後で共有しよう」


 ゲオルドは淡々と電話口で話していた。電話口から漏れるのはアディナの声。彼女が言うには、タリスマンの町の一角に暴徒がいるとのこと。レヴェナントでもない、人間の暴徒。ゲオルドは一段と険しい顔になった。


「こういうときに一番怖いのはゾ……レヴェナントでもなく、人間だ。アディナ達もよく考えて行動してくれ」


 ゲオルドはそう言って電話を切る。次にゲオルドはユーリーに電話をかけた。

 だが、電話はつながらない。何度コールしても、ユーリーの持つ端末にはつながらない。ゲオルドはクリフォードの端末に電話をかけてみた。少しでも望みを持って。


『ゲオルド?』


 クリフォードの声がゲオルドの耳に入る。


「ああ。ひとまずクリフォードが生きていて安心した。ユーリーにはつながらなくてな。今、どうなっている?」


 ゲオルドは尋ねた。


『俺は無事だ。廃工場の崩落に巻き込まれたが、処置できるくらいの怪我しかしていないぜ。ユーリーとは分断された。あいつが何やっているのかもわからないんだ。最悪……いや、そうであってほしくはないけどなぁ』


「……そうか。わかったよ」


 ゲオルドは電話を切った。


「ユーリーが死んだかもしれない。そうと決まったわけではないが。戦闘中の可能性だってある」


「そうか……」


 マルセルの表情は複雑そうだった。が。


「廃工場に向かってみませんか?」


 マルセルは言った。


「わかったよ。俺としても、仲間を下手に失いたくはないからな」




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