表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ3 デーモンボーイズ
31/136

10 仕掛けてきなよ

 ――あのゲートを超えてレムリアまでやってきて。それからディ・ライトという男に出会うまで、私の記憶はあいまいだ。だけど、相当ひどいことをされたということはわかる。あれで、私は完全に人を信じられなくなった。仲間だと思った人に一族を皆殺しにされたりもしたけれど、結局は。


 貧血のような症状の出ていたアディナは頭を抱えた。貧血ということを差し引いても、彼女は顔色が悪い。

 彼女には人に言えない過去がある。


「アディナ……悪いことを思い出させたかもしれねえ」


 ブリトニーは言った。


「いや、それは別に構わない。本当に嫌な部分は意図的に忘れた。それと、あの女は何?」


 アディナのその瞳に映る、とある女の姿。屋根の上からこちらを見ている。同じ方向を見たブリトニーも女の姿に気が付いた。

 彼女の周囲にはすでにイデアが展開されていた。


「仕掛けてくるようであれば迎え撃つ。遠距離であれば、あたしの方が有利に戦える」


 ブリトニーはそう言って、イデアを展開する。彼女としては、脅しのつもりだった。だが。


「仕掛けてきなよ。それとも、ボクが何をしてくるかわからなくてビビってるぅ?」


 屋根の上の女――ヘザー・レーヴィは2人を馬鹿にしたかのように言った。


「いいだろう。降りてくるなら降りてきたらいい。そうしなければ、ここにいるブリトニーがあんたを焼き尽くすだろう」


 ――シンプルな能力はばれたところで対策を取りづらい。特に、シンプルでありながらもトリッキーなブリトニーの能力は、ばらしたところで害なんてない。

 アディナはヘザーから目をそらさない。


「あれェ? そんな事言っちゃう? ボクには君たちを引き裂くことくらいたやすいんだけど」


 ヘザーはすでに展開していたイデアを一点に集中して放つ。その対象は、ブリトニー。


「女子ってさ、ドロドロしてるんでしょ。上っ面だけの友情となれ合いで、影では足を引っ張り合ってる。その姿、さらけ出してみたら?」


「くそっ……!」


 ブリトニーはヘザーに抵抗するように、イデアをぶつけた。紫と虹色が相殺し合って消える。すると、ヘザーは嫌なものでも見たかのように表情を歪めた。


「どうやら防げるみたいだな。さて、どうする? あたしには抵抗するすべがある」


 すると、ヘザーはその顔を歪ませた。


「ボクが直接手を下せなくとも。君たちはいずれ、殺される。ボクは君たちを敵と認識した。せいぜい足掻くことだ、ブス」


 彼女はその言葉だけをブリトニーに浴びせ、建物の反対側に飛び降りた。ブリトニーは下手に彼女を追わない。

 よくわかっていない場所に単独で突っ込んでいけるほど、ブリトニーは無謀ではなかった。ただ、彼女は嫌なニュースでも見ているかのように、ヘザーの逃げ込んだ方を見ていた。


「怒らないの?」


 アディナは尋ねた。


「挑発だろ。それに、あたしがブスってことに反応してしまったら認めちまったってことになる。実際そうだけどさ」


 ブリトニーはため息をついた。

 彼女は、アディナが想像する以上に困難を乗り越えていた。外見のコンプレックスも、言葉遣いも、同性愛者であることも。「そうであってはならない」といわれ、気にしながらも彼女は生きていた。


 ――苦労していたのは私だけじゃない。


「そう……もう少しこの辺りを見てみる?」


「見てみようかなあ。レヴェナントがどこにも見当たらないあたり、怪しい」


 と、ブリトニーは言う。

 そういえば、近くにレヴェナントはいない。それだけではなく、ある場所、ある時間を境にレヴェナントが消えた。

 ここで何が起きているのだろう?




 ブリトニーとアディナはタリスマン支部の近くに移動する。やはり、ここにもレヴェナントはいない。ストリート・ギャングも。あまりにも静かなこの場所であったが、アディナはその経験からあることを見抜いていた。


「ここから先の通り。何か不穏な気配がある。私たちの敵こそいないけど。いや、新しい敵ということになるね」


 と、アディナは言った。

 ブリトニーはアディナの言うことを今一つ理解できていなかった。だが、その新しい敵の正体を新しく知ることとなる。


 2人はヘザーに逃げられてなお、彼女の掌の上にいる。彼女は影からでも2人を見ているのだった。


 タリスマン支部の表門からのびる道。静かではあるが不穏な気配が漂っている。

 ブリトニーはルーファスに気づいたときと同じように、イデアで敵の気配を探る。道の近くにいる者に特殊な者はいないようだったが――


 1軒の民家のドアが開き、銃を持った男たちが出てきた。彼らはブリトニーとアディナを見るなり銃口を向ける。

 彼らに続いて道を塞ぐようにして住人たちが出てきた。持っているのは金づち、バール、刃物に始まって、銃まで。


「クソ……一網打尽にしなきゃならねえってわけ? レヴェナントだけじゃなくて暴徒まで!」


「いや、その必要はない。別のルートを回って逃げる。アトランティスロード沿いだったら」


 と、アディナ。

 ブリトニーは頷き、2人は元の道を戻る。アトランティスロードを東側に進み、ネビロス地区から本拠へ。戦うことになるのだろう、と覚悟しながら。


「6年ぶりね。こうやって追われるのは」


 アディナは静かな声で言った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ