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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ3 デーモンボーイズ
23/136

2 俺は絶対に生き残る

GIFT

[名詞]

贈り物。


(英)

 敵に顔の割れているユーリーとクリフォードは本拠から離れた場所の調査を希望した。具体的にはネビロス地区北東部の廃工場。そこにおけるレヴェナントの状況を把握することが重要ではないか、とユーリーは言う。


「一理あるねェ。ただ、廃墟群だから人が住んでいるとは限らないだろう?」


 椅子に座ったブリトニーは言った。


「それについては問題ないだろう。あのエリアでは犯罪も起こりやすいみたいだ」


 口を開いたのは意外にもアディナだった。口数の少ない彼女はユーリーらの思う以上に様々なことを知っていた。


「ああ。それに、あの近くにはホームレスも結構いるみたいだ。それで、他はどこが気になる?特に気になるところがなければ支部に殴り込みたいが」


「ユーリー。お前、トロイが警戒すべき相手だと知っていながら考えなしにやつらのホームに突っ込むつもりか?」


 マルセルは口を挟んだ。

 何も彼はユーリーが気に食わないということでそう言ったのではないのだが。


「マルセルの言う通り、相手が何を仕掛けてくるか完全にはわかっていない。6人だからといって安全でもないぞ」


 と、ゲオルド。

 彼が言う前から、ユーリーだってそれとなくわかっていた。ルナティカから送られてきたあの手紙の内容だって把握している。

 今はまだ、タリスマン支部に手を出すときではない。


「それじゃあ、ユーリーとクリフォードは北東部の廃工場群を頼む。俺たちが行った廃工場とはまた違うみたいだしな。それで、ブリトニーとアディナはタリスマン支部近くの偵察を頼めるか?」


「それに何の意味があるというんだ」


 ゲオルドの指示に不服そうなアディナ。ゲオルドの態度からして、アディナはタリスマン支部に向かうことはしばらくないだろうと考えていた。


「あくまでも目的は偵察。ユーリーの逃亡から結構時間は経っているからそれなりに意味はあると思うんだが」


「そういうことだったか」


 と、アディナは答えた。

 彼女は己の担う役目を再確認した。鮮血の夜明団のメンバーではないブリトニーを伴って。


「俺とマルセルは教会を中心とした廃墟群に行こうと思う。何かあればお互いに端末で連絡をしよう」




 ここはネビロス地区北東部の廃工場近く。割れた道路の隙間から草が茂り、それなりに長い間放置されていたのだろう。その道を進むのが、バイクに2人で跨るユーリーとクリフォード。


 ――乗り捨ててあったものを使っているが、ここで気にするわけにはいかねえな。


 ユーリーはバイクを止めて言う。


「ここだな。どれだけの人が生活しているかも正直わからねえ。おまけにデーモンボーイズも介入してくると来た」


 ため息をついたユーリーに続き、クリフォードもバイクを降りる。

 今のところ、2人を取り巻く状況に変化はない。廃工場は、ユーリーが最後にここを見たとき――半年前から何も変わっていない。変わったことといえば、落書きが増えたことくらい。


 盗まれることを考え、クリフォードはバイクの近くに罠をしかけていた。彼もタリスマンの町――ネビロス地区の治安の悪さを理解していたようで、移動途中にユーリーに提案していた。ユーリーもその提案に乗ったのだ。


 2人は破壊された門から廃工場に足を踏み入れる。


 そこで待っていたのは――レヴェナント、首のない死体。やはりか、と予想していたクリフォードはすかさず銃でレヴェナントの頭部を撃ち抜いた。

 白い薬莢は地面に落ちるなり消滅した。


 一方、レヴェナントは額から血を流し、倒れる。その様を見てクリフォードは頭を抱えた。


「やっぱり感染者には効かなかったか」


 クリフォードは銃を下ろす。


「どういうことだ?」


「俺の解毒剤だよ。レヴェナントに効くかどうかをはやいところ試しておきたかったが、無理そうだな。本当に必要な時までは実弾を使うよ」


 と、クリフォードは言った。


 そして。再びクリフォードが銃を使うまでに時間はかからなかった。

 クリフォードはレヴェナントとは別の気配の方向に向き直り、引き金を引く。銃声、そして転がる薬莢。

 弾丸が貫いたものは猫ほどの大きさのネズミの影だった。影は貫かれると即座に消滅する。


「これもイデアだな?」


 クリフォードはどっと押し寄せる影の群れに銃口を向けて言った。


「どんな能力だろうな。少なくとも、かたっぱしからぶっ潰すには、俺の戦い方と非常に相性が悪い。小さくてすばしっこいからな」


 と言いながら斧を叩きつけるユーリー。やはり大振りな攻撃は影に当たらず、影は斧の横をすり抜けてゆく。影はそのままユーリーの脚にまとわりつき――


「いや、悪くないぞ。場合によっては、お前の能力とはな。殺人カビ、だっけ?ヘンリクが言うには――」


 クリフォードの一言がユーリーのトラウマを抉る。かつて全く制御できずに仲間や師匠を殺したこの能力。己の意思で対象をいともたやすく蝕むこの能力。


 ――これは贈り物(GIFT)ではなく、(GIFT)だ。


「こんなところで使えばお前を殺してしまうだろ……」


 ユーリーは斧の重みを感じながら言う。すでにこのとき、ユーリーには影の効果が効き始めていたのだ。


「俺は絶対に生き残る! だから使えよ! 範囲も広くて、使い手まで巻き込めるその能力で!」


 クリフォードは影を躱し、弾丸を撃ち込みながら叫ぶ。

 かつてユーリーの能力を受けて生きていた者などいない。だが、クリフォードはそれでも生き残るという自信がある。覚悟を決めたユーリーはクリフォードを含めた広範囲――影がばらまかれた範囲に灰色の胞子のイデアを展開した。すでにユーリーは脱力したようになり、斧を手放していた。


 一方のクリフォードは弾切れを確認し、イデアを展開した直後に銃口を彼自身の眉間に突き付けた。


「やるぞ……」


 胞子が灰色から紫色に変わる。

 紫色の胞子を浴びた影はみるみるうちに蝕まれて消滅する。

 クリフォードにもその胞子がふりかかり、毒が彼を侵す。彼は、すぐに引き金を引いた。


 廃工場に銃声が木霊する。



GIFT

[名詞]

毒。


(独)

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