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6 恐怖におびえて

 気配はこの近くにある。アリスを追う2人は血痕をたどり、エレナがいた建物に入る。ドアの向こう側にも血痕が残っていたが――


「本当に地下に入んの? 地下で戦うことがあれば夜明けまで粘るのも厳しいと思うんだけど」


 ビルの中の階段を降りようとしたとき、ブリトニーは言った。


「入るよ。そりゃ夜明けを待つという手もある。だがな、それだけでどうにかなると思うなよ。私らはその前にケリをつける」


 エレナは答えた。イデアに覚醒したとはいえ、エレナは強気だった。慎重になろうとするブリトニーは彼女の姿を見て不安になっていた。

 2人は階段を降りる。その先にアリスが待ち受けているという前提で。だが、それが間違いだったのかもしれない。


 階段を降り切ったそのときだった。時の流れが遅くなった。直前に光を放ったブリトニー。その光で周囲の様子は見えなくなったが――アリスの襲撃そのものは防いでいた。


「ああ、そうしたいのかい。そうやって光で防壁でも作って私を近づかせない。確かに光の速度は私が時間を弄ろうがほとんど関係ない」


 ブリトニーとエレナの耳に入るアリスの声。彼女は確かに近くにいる。が、肝心の姿は見えない。おそらく死角にでもいるのだろうか――

 暫くすると時の流れが元に戻った。ブリトニーの放った光は消滅する。すると、アリスが現れ、投げ斧を2人に向けて放ってきた。


「それくらい想定済みだっつうの」


 と、エレナ。ひとつを銀の義手で叩き落し、残りは避ける。ブリトニーもその攻撃を回避し、あわよくばアリスを仕留めようと光を放つ。

 アリスはその攻撃を見切っていたかのように黒い布でその光を防いだ。そのままブリトニーに近づき彼女を壁に叩きつける。


 ――これで、無力化はできたか。こいつがいると非常に戦いづらい。この地下ではね。


 アリスはエレナの隙を伺いながら階段を上る。だが、エレナはそれを逆にアリスの隙だと考えて矢を放つ。アリスはそれを避けながら階段を上る。地上に出なければならない。地上の方が上手く戦えると考えて。


 ――早く。早く外へ。外だったら、2人を相手にしても問題なく戦える!


 階段を上り切ったアリスはドアから外に出る。ここで待ち伏せしてブリトニーとエレナを討つ。エレナが単独で来たのならば、そのまま戦えばいい。


 一方。アリスに逃げられたエレナはブリトニーに駆け寄った。ブリトニーはどうにか立ち上がり、エレナの顔を見た。


「くそ……あたしが……経験浅いって……ばれたか……?」


 痛みで言葉が何度か途切れるブリトニー。だが、彼女から戦意が喪失した様子はなかった。イデアだって展開できる。


「どうでもいいだろ。今はアリスを斃すことに集中する。お前、ポテンシャルはあるんだろうが」


 そう言いながら階段を上ろうとするエレナ。そのときに感じた地上のただならぬ気配。アリスはパワーアップでもしているようだった。

 ブリトニーとエレナは階段を上り、地上に出た。


 ビルから出てエレナが気づいたのはアリスの異変だった。アリスが展開していたイデア――時計の形をとったものだったはずのイデアは別のものに変化していた。天球儀なんかのようになり――

 異様だ。だが、この様子に見覚えのあるブリトニー。恐らくこれは。


挿絵(By みてみん)


「アリス……あたしが見ていない間にODなんてしていたのか」


 ブリトニーは呟いた。確かにアリスにはODの余裕があった。薬を持っていたとしてもおかしくはない。


「いつしたのかは言わないがね。だが、命にかかる負荷はない。昨日のあれは私の本気ではないということになる。どうする?」


 と、アリスは誘うように言った。


「どうもこうもねえよ。どれだけあんたが強化されていようが殴れば終わる」


 エレナはそう言ってイデアと光の魔法を同時に使う。展開された破片のイデアに光の魔法を纏わせて、アリスに突進した。破片のイデアは鎧であり、アリスの直接攻撃を受ければアリスも無事ではすまない。

 アリスはエレナの状態を見て距離を取った。彼女にはまだ、投げ斧がある。スカートの中に隠してある投げ斧を取り、後ろに下がりながらエレナに放った。その瞬間にアリスは能力を発動する。


「動けないだろう。迫ってくる斧だけが見えるだろう。怖いかい? 怖いなら、そのまま恐怖におびえて死ぬがいいさ――」


 アリスはひょいと跳び上がり、エレナの後ろからの攻撃を躱す。その攻撃は光の束。放ったのはブリトニーだった。

 時の流れが遅くなろうとも、光の速さにそれほど影響はない。ブリトニーはいつでも光を放てるようにイデアを展開していた。展開していつでも撃てるようにしていれば、撃つのは一瞬。ブリトニーはその一瞬を狙っていた。


 ――外したか。やっぱり広範囲じゃなきゃ厳しいか。


 これで、ブリトニーは無防備になった。


「そうやって恐怖で顔が歪むのか。それにしても、いい薬だったよ。あれは私にさらなる力を与えてくれた」


 アリスはそう言って街灯を引き抜くとエレナから少し離れたところに立つ。だが、これ以上近寄ることはない。エレナだけでなくブリトニー相手にも。そのまま、引き延ばされて遅くなった時が過ぎる。


「時の流れは元に戻る。エレナ、今こそお前の最期の時だ!」


 街灯を鈍器のように振るうアリス。硬くて太い武器を吸血鬼の腕力で振り回す。これを受け止めるのは、エレナでも厳しかった。だから、避ける。受け流す。


 ――光の魔法は通らねえ。このままアリスの懐に飛び込めば価値か?


 エレナは地面に着地する。


「おい、ブリトニー! さっさとやっちまおうぜ。適当なタイミングでアリスを攻撃すりゃあいい」


 ブリトニーの方を見ずに言うエレナ。


「了解だ。で、あんたも前をよく見ときな」


 と、ブリトニー。彼女の言葉のとおり、エレナに再び詰め寄るアリスの姿が。今度、彼女は何を仕掛けてくるのだろうか。


 ――投げ斧だけはありえねえ。だったら。



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