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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ9 アリスのゲーム
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11 地獄を見よう

 夜が明ける。道端に横たわる遺体を見て、フィルは顔をしかめた。どれもレヴァナントとして操作されていたもので、程度の差はあれど、だいたいは損傷している。その様子に違和感を覚えたフィル。


「おかしい。つい昨日まで死体が操られていたはずだ。しかもイェスパーまで、どこにいったんだ」


 フィルは呟いた。勿論その言葉に何かしらを返す者もいない。タリスマンは死の町と化したのだ。フィルは踵を返し、クロイツやイェスパーとの待ち合わせの場所へと急ぐ。報告しなくてはならないことがあるのだから。




 待ち合わせ場所。ビルの一室の光が当たらない場所。示し合わせていた通りに現れるクロイツとフィル。しかし、イェスパーは一向に現れない。


「……何かあったのか?」


 と、クロイツ。時間を守るような性格だったイェスパーがここに来ないことについて、クロイツは不安を感じていた。外で戦っているのだろうか、或いは――殺されたのか。


「俺はわからねえ。だがあいつは、カビ使いを殺しに行くと言っていた。カビ使い……ユーリー・クライネフ……まさかな」


 フィルは薄々気付いていた。彼もまた、戦う気はなかったもののユーリーと接触している。そのときに感じたユーリーの強さはイェスパーやフィル自身が及ぶものではないと。だが、フィルはイェスパーがユーリーを殺せると信じていた――


「どうした、フィル」


「クロイツ。俺がフィルの仇を討つことについてどう思うか? 教えてくれ。仇討ちを面倒臭がっていて考えていなかった俺が悪いのはわかっている……」


 と、フィル。


「お前が仇を討つ必要はない。俺がきっちりあいつを地獄に送ってやる。お前は……ライオネルと幸せになっていればいい。迷うくらいなら復讐なんてするな」


 クロイツは言った。フィルに突きつけられたのは己の覚悟のなさ。クロイツは仇を討つことや死ぬこと、恨まれることへの覚悟があったがフィルはどうだったか。

 フィルの迷いがクロイツに仇討ちをさせることになる。


「まあ、まずは休め。イェスパーだって案外生きているのかもしれん。有り得ないだろうが事情を知らんやつに保護されたのかもしれない」


 クロイツは付け加えた。が、彼もまたイェスパーの死を直感的に感じ取っていた。

 復讐だ。フィルがそれを迷うのならば、彼に代わってクロイツが。彼を殺したであろうカビ使い――ユーリー・クライネフを殺す。これがイェスパーに対してできること。




 本拠だった場所付近の地下に集まるユーリーたち。刑務所から帰ってきた面々は暗い表情を隠そうとしていたが、ユーリーはそれを見抜いてしまう。加えて、マルセルの不在。ユーリーはあることを考えてしまった。


 ――マルセルは殺されたのではないか。


 ユーリーは激しく後悔した。あのとき、手紙を見せなければ。罠だと言っていたマルセルの言った通りだったのだ。


「俺が悪いんだな……」


 話を聞かずとも、わかっている。


「いや、どういう結末でもマルセルは殺されていた。もし早いタイミングでアリスが俺達の前に現れて、マルセルを殺したとしよう。どうせお前は自分を責めるはずだ。そうだろ?」


「否定はできない。だが、俺がマルセルを送り出したようなもんだろ。挙句の果てに俺は別のヤツとの戦闘に逃げた。そうだよ、全部悪いのは俺だ。俺が変な気を起こさなければこういうことにはならなかった。俺がタリスマン支部の中で壊れていくだけでよかった」


 と、ユーリー。立ち直ったように見えてユーリーの精神は確実に蝕まれている。このまま放置していいのか、とクリフォードは不安になった。

 そんな2人を気にしたルナティカがそこに近寄ってくる。ユーリーの様子は酷いものだった。火傷は治療してもらったのだが――


「クリフォード。俺は一体何人殺した? 俺のせいで何人が死んだ? 俺は半端な覚悟のままタリスマンにいて、トロイやジェラルドの言うことばかりを信じていた。そのせいで俺は何人ころしたことになるんだ……?」


「もう喋るな!」


 平手打ちするクリフォード。誰もがユーリーとクリフォードの方を見る。ユーリーは虚空をぼうっと見つめていた。


「クリフォード……あんたってやつは……」


 メルヴィンは呟いた。


「……そうだな。やり過ぎてしまった。監視対象とはいえ、ここまでやり過ぎるのもよくないな」


「そうじゃない」


 メルヴィンはそう言ってクリフォードの言葉を遮った。そのままユーリーの前に立ち――


「俺もお前のことを許したつもりはない。だが、今は事情が事情だろう。ユーリー、一緒に地獄を見ようじゃないか。絶対に逃れられない、楽になることも許されない地獄を」


 メルヴィンの顔は笑っていた。彼はすでに覚悟を決めている。


「責任を果たさねえとな。これ以上は苦しみたくないが、俺にはそれがちょうどいいんだろう」


 ユーリーは言った。


 ――あとはトロイと、イザベラと、ケイシー。そいつらさえどうにかできれば俺達は。それでも、そこまでの道のりがしんどいな……



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