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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ1 対策チーム、結成
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11 ブリトニー・ダーリング

 5人と3人が訪れた場所はとあるカフェだった。

 もともとゲオルドと連絡をしていたのは零とヘンリクだったが、今ここにいるのは2人だけではない。彼らともう1人、女がいる。


「彼女は誰なんだ? 」


 ゲオルドはブリトニーの姿を見るなり言った。

 編成されたチームの中にブリトニーを知っている人物は、ただ1人を除いていなかった。

 クリフォードはブリトニーを見て目を丸くする。


「あたし?彼なら知ってるんだろうけど、ブリトニー・ダーリング。元はベーシストで、今は魔物ハンター。といっても、1年ちょっとしかやってないんだけど」


 ブリトニーはそう言って髪をかき上げる。緑色の髪が照明を受けてキラキラと輝いていた。あまり整った顔ではなかったが、彼女のセンスは5人を釘付けにした。特に、クリフォード。


「だよな。何の事情があってここに来たのかと思ったぞ」


 クリフォードが言った。


「そりゃ、あんたが吸血鬼とかイデア使いの犯罪者と戦っているときにあたしはゲートのせいでメンバーを1人除いて全員亡くして!あと1人は全身に何かが回ったみたいで昏睡状態だ。なんであたしが魔物ハンターやってるかの理由よりもっと話すことはあるだろ? 」


「ブリトニーの言う通りだ。今は作戦会議に集中して。事情は後で聞く」


 と、ゲオルドも言う。

 彼女の事情はゲオルドの知ったことではなかったが、ゲオルドは何かを察したらしかった。リーダーを務める彼は見た目に似合わず繊細だ。


 カフェの8人で座ることのできるテーブルに座り、ヘンリクは写真と報告書を出した。

 写真に記録されているのは、廃棄所の様子。本来死体が放棄されるはずの場所から死体が消えているほか、首がちぎられた死体だけが転がっている。その近くにあるのは麻薬らしきもの。


「僕たちが見たときはこうなっていた。とある少年に廃棄所のいつもの様子を聞けば、いつもは死体が捨てられているそうだ」


 と、ヘンリクは言う。

 ユーリーもそれに頷いていた。彼は対策チームで唯一廃棄所に出入りしていたことがある。そのため、いつもの廃棄所の様子も知っていた。

 ――いつもの廃棄所は、死体が遺棄されるのに定番の場所だ。タリスマンの町に伝わる噂もあって、人がほとんど入らない。見られてはならないことをするには最適だ。


「ああ……その死体。下手したらレヴェナントにされているかもな。可能性が否定できないというだけだが――」


「いいや、間違ってないかもしれないねえ」


 ここで口を挟むブリトニー。


「あたしは廃棄所でレヴェナントと戦った。とはいっても、あたしの能力の前ではやつらは無力だったけどな。それとの関係については何とも言えないけど、死体持ち去りの犯人だってタリスマンに逃げ込んだみたいだ」


 8人の間に緊張した空気が流れる。

 もともと、死体持ち去りの犯人を追っていたブリトニーは廃棄所で予想外のものを見た。それがきっかけで彼女は今ここにいる。

 ――やはりブリトニーも対策チームとともにタリスマンの町に突入するしかない。


「ブリトニー。我々に協力してもらえないだろうか? 」


 緊張した空気の中、ゲオルドは言った。彼の隣で驚いた様子のマルセル。ゲオルドは彼のことなどお構いなしにことを進めようとしていた。


「あ……そりゃ私も合流しろって言われていたし。ということで、よろしく頼む! 」


 と、ブリトニーは言う。

 その笑顔の中にも、これまでに乗り越えてきたことが見え隠れしていた。レヴェナントと戦ってきたことだけではない。彼女が魔物ハンターとなるまでのことも。


「話は変わるが、町の様子はある程度記録している。レヴェナントが爆発的に増えているわけではないようで、やつらは襲う人間を選んでいるようにも見えた」


 零は言う。


「たとえば観光客は襲われていない。俺たちも観光客を装ったが、このとおり無事だ。戦うこともなかった。よそ者を襲うなと命令されているのかもしれないな。それで、一般市民は感染させるような襲い方をしていた。ストリートギャングや犯罪者、浮浪者は有無を言わせず殺している。やはり、裏から操っている黒幕がいるのは濃厚だろうな」


 黒幕の存在。ユーリーだけはその顔が浮かぶ。忌まわしき存在。そして、彼が犯人であろうとも、彼はルナティカの命を握っている。

 ルナティカを犠牲にするか。彼――レヴェナントについて1枚かんでいるであろうトロイ・インコグニートを野放しにするか。


「さて、ユーリー。君の意見はどうだ?タリスマンの事情と、連絡さえ寄越さない支部長について。それから、知っていればレヴェナントについて」


 ゲオルドがユーリーに声をかけた。


「タリスマンは、空き家が多いうえ、廃工場やスラム街もある。それは知られたことだろうが、レヴェナントがそこに潜んでいる可能性も低くはない。あとは、レヴェナントだけじゃなくてストリートギャングからも身を守る必要がある。一番怖いのはレヴェナントでも吸血鬼でもねえ。人間だ。クソ野……支部長だってそうだ。あいつは元参謀を陥れてその命を握っている。本心としては、支部長は生け捕りにしたいところだが――」


「おい、ユーリー。いくら自分のホームだからといって勝手な態度は許さない」


 マルセルはユーリーの言葉を遮った。


「マルセル。少し黙ってくれ。確かに黒幕に聞くことはいくらでもある。これから、3つに分かれる。アディナとブリトニーは空き家が多いエリアを。ユーリーとクリフォードは廃棄所からネビロス地区にかけてのエリアを。俺とマルセルは廃工場付近を見て回る。何かあればそれぞれで連絡すること」


 ゲオルドも何か考えていることがあるようだった。

 彼の考える分け方も、理にかなっていた。ゲオルドとマルセルはもともと馴染みがある。クリフォードとユーリーはチームが編成されてから、会話することが多い。アディナとブリトニーはこれまでに関係があるということではなかったが、ゲオルドはこの短期間で知ったアディナを信頼してブリトニーと組ませた。


「タリスマンでは麻薬取引が行われているようだが、そういうところでは同時にアレも取引されている可能性が高い。紅石ナイフ。吸血鬼がいる可能性もゼロではない」


 ゲオルドは続けた。

 この話を聞いていたマルセルは、己の使命を再確認しているようだった。


「明日。明日の昼前にタリスマンの町に突入する。覚悟はできているな? 」


「覚悟なんて、魔物ハンターになったときからできている。俺は、大丈夫です」


 ユーリーは言った。




 夜のネビロス地区に現れる蛍光ブルーの吸血鬼。

 吸血鬼は彼に襲い掛かるレヴェナントを片手でなぎ倒す。たとえ噛まれようとも、血をその身に浴びようとも、彼が感染することなどなかった。


「フフ……待っているよ、ユーリー」


 吸血鬼は廃工場に入っていった。




次回からタリスマンの町に突入していきます。

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