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GIFT of Judas ~偽りの正義と裏切者への贈り物  作者: 墨崎游弥
ステージ9 アリスのゲーム
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7 予定調和にもほどがある

 ブリトニーの感覚で、3回ほど時の流れがおかしくなった。知覚はできていても、その通りに体が動かない。妙な感覚だった。

 それから暫くして。刑務所の屋上に現れるエレナ。ブリトニーのいる場所からではよく見えないが、エレナは確かにこちらを見たのだった。合図をしたのか、それともブリトニーの無事を確認したのか。


「わかってるよ。吸血鬼の姿を見りゃ、あたしも光を撃つ。安全圏で戦った方がいいからな」


 ブリトニーは言う。

 そして。刑務所の屋上に動きがあった。ブリトニーはまた、様子を見守ることにした。何かあれば光の魔法でアリスを狙い撃つ。それこそターゲットを狙うスナイパーのように。




 アリスの足音だ。エレナはふっ、と笑うとクロスボウのリムを外し、剣だけの状態に変えた。これでアリスに接近戦を挑む。

 ふと、エレナの視界に入るフェンスの破れ目。ここから突き落とされることになればおそらく命はない。あの場所は絶対に避けなくてはならない。


「来たか」


 エレナは呟いた。血塗れのアリスは不敵な表情を浮かべ――


「そうだねぇ。いやあ、驚いた。まさか4対1だったとはねぇ」


 相変わらずの余裕。だが、エレナはそんなアリスに一泡吹かせることだけを考えていた。


「知ったことかよ……」


 と、エレナ。脚を踏み込み、アリスの懐へと突っ込む。どのタイミングで能力を発動するのかもわからない。その前兆だってつかめない。


 ――能力さえ見切れれば。こんなときにイデアがないというのが困るところだ。マルセルはどうだったか……?


 アリスは動かない。仁王立ちのまま、エレナを待ち構えている。そのまま突撃すれば反撃をくらう可能性もある。が、エレナにはそんなもの関係ない。エレナに何かあれば下からブリトニーが援護する。スナイパーよりも正確な一撃をアリスに撃ち込んでくれるだろう。


 エレナの振るう銀色の光り輝く刃。アリスはそれを見切ったのか、避けた。時を操り、受け流したのではなく。アリスはその余裕を保ったまま後ろに下がってゆく。能力を使わないまま――


「……何のつもりだよ? これくらい、能力使えばどうとでもなるんじゃねえの?」


 エレナは言う。それに続き、剣を振る。やはりアリスには避けられる。剣の修練をそれほど積んでいないエレナなのだから当然なのかもしれないが。


「どうとでもなる、か。知っているかい? イデアには制約というもんがあるんだよ」


 制約。その存在をエレナは知らなかった。連発できるような代物だというものではない。能力を使わないアリスだったが、エレナを誘導するようにして攻撃を避けているように見える。空を切るエレナの剣。が、エレナは剣を放り投げるとアリスに拳を叩き込んだ。命中したのは左肩。その瞬間に抉られるアリスの体。


「……お前の勝ちだよ、エレナ。そのままタリスマン支部にでもいっておいで。模造の魔族が待っているよ」


 アリスは言う。エレナにはその意図がわからなかったが――


「何のつもりだ? まだ終わってねえだろ――」


 このとき、エレナはフェンスの破れ目に気づく。アリスのすぐ後ろ。彼女はあえて足を踏み外し、刑務所の屋上から落ちてゆくのだった。そのときのアリスも相変わらず余裕を崩さない表情だった。これは不死である吸血鬼ゆえのものか――


「さっさと行きな。マズい奴が野放しになっている」


 それだけを言い残し、アリスは闇の中に消えていった。

 エレナは立ち尽くし、ため息をつく。


 ――これほど後味の悪い戦いはない。恐らく認められたのだろうが、私はアリスを斃せなかった。次にあの女を見たら、今度こそ。マルセルを殺したんだからな。


 エレナはマルセルのクロスボウを拾うと踵を返し、階段を下りていく。その階段に横たわるマルセル。そして、動揺したようだったクリフォード。


「すまねえ……俺だと力不足だったみたいだ」


 エレナの姿を見るなり、クリフォードは言う。


「いいや、力不足だとかそんな言葉は聞きたくないね。というか、歯痒いのは私も同じだ。お前ひとりが歯痒いと思ってんじゃねえよ」


 エレナは言った。そんな彼女も自責の念にとらわれていた。自分がもう少しうまく立ち回れていたのなら、マルセルは助かったのかもしれない。エレナはできるだけ悟られないようにしてクリフォードの横を通り過ぎる。


「なあ、クリフォード。私はこれから模造の魔族を殺しに行く。もともと、この町に来た理由もそれだ。私がやるしかねえんだよ」


 と、エレナ。そのまま彼女は階段を降りようとするが、クリフォードは「待て」と引き留める。すると、エレナはクリフォードの方を見た。


「エレナ。お前は絶対に死ぬなよ」


「……おいおい、私を誰だと思っている? 少なくとも私は強い。並みの吸血鬼ハンターよりね。模造の魔族くらい、捻りつぶしてやるから安心しな」


 エレナはそれだけを言い残して階段を下りて行った。




 ――痛い。光の魔法で片腕を無くしたが、その傷口がひどく痛む。目の前は血の海、どれも私の血なのだろう。これがいわゆる『全身を強く打った』状態。感覚からして内臓も露出してしまっているだろう。これで再生すれば、ひとまず私は生きていられる。


 地面に伏せたアリス。片腕こそ失ったが、致命傷ではない。かろうじて動く右手で左肩の傷口を抉る。侵食されたことで再生ができなくなっているのも関係ない。

 何より、アリスが実力ある吸血鬼ハンターを見つけ出したことが一番の収穫。それ以外に意味などなかったのだ。


「案の定、勝者はエレナか。全く、予定調和にもほどがある」



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