表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
111/136

8 愚弟トロイ

 この先だ。

 イアンとブリトニーはレヴァナントを倒しながら進んで行く。静かになったこの町からどうやって集めたのかもわからないレヴァナント。彼らも元は人間だった。が、ブリトニーもイアンも彼らへの情など捨てていた。彼らは被害者なのだとしてももはや救うこともできない。道には二人から倒されたレヴァナントが転がっている。


 数の多さからしてこの近くにトロイがいてもおかしくない。


「なあ、所長。トロイのヤツ、どこにいると思う?」


「私の弟だったトロイが好んでいた場所は教会だね。こいつらを作り出すやつがそこにいるかどうかが問題だがね」


 と、イアンは答えた。


「探ってみようか。イデアを見たことあればそのまま探知できる」


 ブリトニーは言う。


「なるほど。それがレヴァナントを相手にして通用するかどうかだね」


「できなくてもいい。あたしができなかったら言う。なんなら辺り一帯焼き払っても構わねえ」


 ブリトニーはすでにイデアを展開し、探知の準備は出来ていた。イデアがピンク色に迸る。そうなったかと思えばブリトニーの体の周りを離れて波紋のように広がった。それはレーダーのようにして敵の気配を探る。


「レヴァナントはまだいる。その先にヤツはいる。だからあたしらは案外近くにいる」


 ブリトニーは言った。


「やっぱりこの近くなのか」


「ああ。あの野郎のびっくりする顔が楽しみだな」


 ブリトニーはいつになく悪い顔をしている。悪いことを企み、それを実行しようとするときの顔だ。


「さて、所長。突入するぜ」


「そうしようか」


 イアンがそう言ったのと同時に雪崩れ込むレヴァナント。彼らを前にしたブリトニーは口角を上げ、イデアの色を変えた。イデアは赤く、それでいて透明な五線譜となる。


 発熱しろ。過熱しろ。燃え爆ぜろ。


 ブリトニーの放った熱を産み出す電磁波はそのままレヴァナントを焼き尽くす。一方のイアンも鎖を振るい、レヴァナントの頭を吹っ飛ばす。もともと捕縛用の鎖の能力ではあったが、それでも殺傷力は十分だった。

 道を挟むようにして炎が上がる。炎に挟まれた道を走り抜け、ブリトニーたちは教会の裏手にたどり着く。


 ――そのまま回り込むのもじれったい。いっそのこと壁でも破壊して中に入ろうか。


 ブリトニーは壁の前で立ち止まった。


「どうしたんだい?」


「あんたさ、ここをぶっ壊して中に入れたりしない? レヴァナントの頭を吹っ飛ばせたんだから」


「人間の頭と壁の強度が違うことくらいわからないのか? まあ、イデアを使えば素手で砕ける人がいるというのは知っているが……」


 イアンも壁の前に立つ。煉瓦でできた壁は丈夫そうにも見えたが。


「やってみる価値はある。ブリトニー、少し離れるんだ」


 と、イアン。彼の足には鎖が絡み付いていた。そのまま力を込め、イアンは鋭い蹴りを放つ。すると。

 壁にひびが入り、ガラガラと煉瓦の壁が崩れ落ちる。一応、壁の破壊には成功したらしい。


「案外、脆いな」


 と、イアン。


「手入れが行き届いてねえんだろ。大分前に放棄されたって話があるんだぜ」


「知っているよ。この廃墟群はね……」


 二人は壁に空けた穴から教会の中に入る。そして、案外近くに彼はいた。

 そこには紅い棺が二つあった。棺と棺の間にいる、金髪の男。


「ここにいたか、愚弟トロイ。エミリーのことでも話したいことがあってね」


「……なんだ、私はお前を知らない。それにエミリーが私の娘であることには変りない。何のつもりかい?」


 棺の間でトロイは立ち上がると言った。


「エミリーが君の娘だって? 馬鹿を言うな。ではなぜエミリーは年を取らない。あの娘は7年前に死んだはずだ」


 イアンが思い出すエミリーの顔。記憶は7年前に彼女を埋葬したときとこの町で再会したときが最後だろう。そして、再会したときのエミリーは既にレヴァナントになっており、彼女自らトロイの手にかかったと言ったのだ。


「私の娘と言えば私の娘なんだよ……人殺しも忠実にやってくれる可愛い娘だ! そうだよ、私のいた世界では私には妻と娘がいた! 彼女と再会したのだよ私は……」


「現実を見て喋ってくれ。ゲートのことなら私も知っているが、こちらのトロイは独り身だった。どうしてこうなってしまった……?」


 イアンは尋問するような口調で言った。だが、言葉はトロイに届かない。彼が身勝手な性格だからか、精神が崩壊しているからか。

 ブリトニーは二人の様子を見て身震いした。討ち取るつもりではあったが、この場では間に入る隙もない。トロイ・インコグニートはイアンが討つべきだ。ブリトニーが本当に討つべきなのは――もう一人のトロイ。


「っ……聞くまでもない、愚兄。そうだ、平行世界のお前の話をしよう! 平行世界のお前は人体実験でのしあがったのだ! それをしておいて、私を非難できるか!? なあ、愚兄!」


 トロイは言う。そのときの彼はもはや正気を保っているようには見えなかった。イアンはため息をつくとイデアの鎖をトロイに向けて放った。鎖がトロイに巻き付く。


「これで拘束した。イデアは押さえ込めないが君は動けない」


 と、イアンは言って拳銃を抜き、トロイの眉間に向けた。


「私を殺すつもりか!」


 トロイは発狂し、紅い棺の蓋を開け放った。そこから流れたら液体がトロイを包み込む。――と同時に彼の眉間に命中する銃弾。

 トロイは絶命した瞬間、レヴァナントとなった――


 イアンは鎖を振るい、トロイの頭を潰そうとした。が、トロイは抜け出し、荒く呼吸しながら地面に立った。


「ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ……ワタシハワルクナドナイ……」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ