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7 死という運命

「俺は死という運命を選ばない」


 ケイシーの体内の氷がとけてゆく。ケイシーの体は凍らなかったことになり、彼は再び無傷となる。運命そのものがねじ曲げられた結果がこれだ。いかなる過程踏んでもケイシーの手によって結果はすべて彼の選んだものとなる――


「運命か……」


 ケイシーの声を聞くとジェシーは呟いた。

 また戦闘が始まる――。今度はケイシーが先にイデアを展開していた。その爪はぎらりと輝き、ジェシーの首を落とさんと振るわれる。一方のジェシーも凍り付いた腕でガードする。が、その腕をも切り落とすケイシーのイデア。ケイシーは畳み掛けるようにしてジェシーに迫った。骨のビジョンは今度こそジェシーを真っ二つにしようとしたのだった――


「吸血鬼がどこまで耐えられるか、見物だね」


 ケイシーは挑発するような口調。対するジェシーは無言でその能力を使うのだった。


 ――凍り付け。君の凍り付いた血液はさぞ美味しいだろう。


 ケイシーを包み込まんとする低温。見えざる脅威はケイシーに確実に迫っていた。

 ジェシーの能力は隠密性に優れている。ケイシーにも見ることは出来ないのだろうと踏んだジェシーは勝利を確信していた。だが。

 ケイシーは能力が作用する範囲の外に出る。骨のビジョンがギロチンか、あるいは斧のように振り下ろされる。その先端はジェシーの顔面に傷を入れた。ジェシーはこのときケイシーの能力の正体に気づくことになる。

 運命。選ぶこと。同じ時系列の複数の記憶。


 ――彼は運命操れるか、やり直しができる。


 勝ち目などなかった。例え一瞬で命を奪ったとしても彼は死すらもなかったことにしてしまう。それを知ってしまった瞬間、ジェシーは絶望した。半ば自暴自棄になりながらイデアの展開範囲を広げ、ケイシーを巻き込もうとする。

 だが、そんなのは無意味。ケイシーはジェシーの隙を見計らい、骨のビジョンを振り抜いた。


「無様だな、そんな姿で転がって。ま、それも運命だよ」


 と、ケイシー。彼は運命を弄っていただけでその場からほとんど動いていないようだった。

 対するジェシー。切り落とされた首が転がり、辺りは血溜りとなる。薄れる意識の中でジェシーは己の負けを悟ることとなる。

 元々勝ち目などなかった。彼とは絶対に出会ってはいけなかった。出会ってしまったことが運の尽きだった。このとき、ジェシーは久しぶりに後悔する。


「ジェシー・インソムニア、死す」


 ケイシーはジェシーの頭部を拾い上げると少し離れた壁に向かって投げた。ぐしゃり、という鈍い音が響き、ケイシーはジェシーの死を確認する。

 吸血鬼とはいっても、死ぬときは死ぬ。ジェシーの場合、原因がケイシーだったにすぎない。


 ケイシーはふと、人間の気配に気付く。


「誰だ?」


「答えないとダメかい? 私、あんたと戦いに来たんじゃないんだが」


 その声の主は女。ケイシーはすぐさま振り返り、声の主を見た。


「エレナ……何の悪だくみだ」


「さぁな。だが戦うつもりはない」


 と、エレナ。彼女は何か隠しているようだったが――


「ああ、いいこと教えてやる。平行世界のトロイが地上で何かやらかそうとしているぜ」


「地上……それは俺が向かうべきかな?」


「そりゃ、自分で決めな。言っとくが私はある程度あんたを信頼してんだぜ。少なくともトロイの野郎に一泡ふかせることについてはな」


 と言うとエレナはほくそ笑んだ。互いに考えることはわからないが――


「ご期待どうも」


 ケイシーは頷く。が、ケイシーはエレナという女の能力を知っておき、それを見越してイデアを展開したままにしていた。

 そのビジョンはエレナの首をはねようとするもエレナは左手受け止める。響く金属音。実体はエレナにも見えないが気配は感じ取れていたらしい。

 ケイシーは困惑した顔でエレナを見る。


「なんだ? よくわからねえって顔じゃないか」


 と、エレナ。彼女の服の破れた袖から見えるのは生身の手ではなく、銀の義手。義手はわずかな光を受けて輝いていた。


「っ……義手だったのか。どうりで落とせないはずだ」


「そうかい。もう一度やる度胸があるなら落とせるか試してみな」


 と、エレナ。彼女もケイシーに敵意を向けようとしていたが。


「いいや、やめておく。早めにトロイのやつを仕留めておきたいからね」


 ケイシーはそう言うと、地上へ向かう階段から上に上がっていった。そして、エレナ。彼女が見たのは灰になってゆく吸血鬼の遺体。エレナはその吸血鬼を知らないが、その身に起きたことはどことなく察していた。例の吸血鬼――ジェシー・インソムニアはおそらくケイシーに殺された。


「まあいいか。私が関係のあるやつでもなかった。吸血鬼については言うほど思い入れもないからな」


 と、エレナ。

 ひとまず待たせている数人への危機は去った。あとは彼らの元に戻り、状況を報告するだけだった。


 ――しかし安心したぜ。あの吸血鬼にしてもケイシーにしても、一筋縄ではいかねえ。私が相手することがなくてよかったな。本当にタイミングがよかった。


 エレナは切り裂かれた袖とそこから見える銀の義手を見ながら考え事をしていた。次にどう動こうか――



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