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4 最悪な結果

 レヴァナントは基本的に生きた人間より足が遅い。トウヤやエミリーなどの例外はいるが、ユーリーを追っているレヴァナントはそれとは違う。少しずつ距離を詰め、巻こうとしていた。

 そんなときに見えてくる建物の出口。ここから外に出れば3人も少しはましに戦えるだろう。外に出たら、と考えていたユーリーだったが、すぐによく知る気配を察知する。


 ――まだいるのかよ、あいつ。


 あいつ。先ほどユーリーらの前に現れた男ケイシーのことだ。あからさまに表情を歪めたユーリーはイデアを展開した。レヴァナントの群れとケイシーの両方を相手しなければならないのはユーリーにとって、間違いなく不運。ケイシーは一行にとって間違いなく敵だった。


「出たら迎え撃つんだろ? 物陰から狙い撃つか?」


 走りながらクリフォードは言う。その手にはアサルトライフルが握られている。状況が変わればいつでも攻撃に転じるつもりなのだろう。


「正面から相手しねえことが市街戦の定石だろうが。それでいいと思うぜ」


 ユーリーは答える。レヴァナントが銃を使う訳ではないが、攻撃には応用できるだろうと考えていたのだ。


 やがて3人は建物の外に出た。その瞬間にユーリーの視界に入る男。

 男は深い緑色の髪を靡かせてユーリー達の方へと振り向いた。


「さっきぶり」


 と、その男――ケイシー。微笑む彼の後ろには手の骨骼のビジョンがあった。それは、ケイシーの物腰も相まって見ようによってはユーリーたちを脅そうとしているかのようにも見えたが――


「敵意はない。俺がやりたいのは邪魔者の排除とユーリーの確保だけだから。そもそも俺がユーリーを殺すと思っているのか?」


 ケイシーは続けた。

 邪魔者がどこまでなのかはユーリーにもわからない。が、彼の本当の性格からしてみれば彼にとっての秩序あるいは正義に反する者はすべて邪魔者ということになる。それをわかっていてユーリーは言う。


「邪魔者かよ。クリフォードとマルセルはどうなんだ? 中にいるジェラルドは」


「お前の連れについては微妙だが、ジェラルドも殺すよ。あれを生かしておいて何になる。あれが生きていれば運命は悪い方にしか向かわない。既にその未来は知っているからね」


 ケイシーは言った。


「は……」


「お前にはわかるはずがないだろうな。まあいいか、話すまでもない」


 ケイシーは建物の内部の様子を悟ったのか、入り口の方を見る。そこから現れるレヴァナントを見ながら「待っていた」と言わんばかりにその力を使う。

 ケイシーの展開したイデアが揺らぎ、一瞬にしてレヴァナントがバタバタと地面に崩れ落ちる。ユーリーにもほんの少しだが揺らぎの様子が見えていた。ケイシーは運命さえも、完璧ではないが操れている。


「ケイシー、お前……」


 ユーリーは口ごもる。


「お前を生かすためだ。お前だけは絶対に死なせるわけにいかないんだよ。お前が生きていれば必ず最悪な結果を回避する。もう何回も試行してわかったんだよ」


 ケイシーは振り返り、ユーリーに笑いかけた。


 ――気持ち悪い笑顔だ。それに試行だと?


 ユーリーはケイシーから目をそらす。手を貸してはいけないということが分かるユーリーは爽やかな笑顔を拒否した。


「安心しろ。お前の手助けがなかろうが俺は嫌でも生き残ることになる。死に損ねた身だからな」


 ユーリーは言った。

 すると、ケイシーは「やれやれ」とでも言いたげな顔をしてその場を後にした。どこに行くのかも考えないユーリーだが、クリフォードはというと。


「あの男はどうするんだ?」


 クリフォードは尋ねた。


「……悔しいがどうやって戦うべきかわからねえ。常識はずれの能力なんてあっていいはずがねえんだよ。クスリでも使っていない限り」


 ユーリーは答える。


 ――クスリ? 俺の記憶にそんなものがあったのか? いや、あのクスリは。


 クスリ。イデアに覚醒する薬、麻薬でもある。そんな薬はユーリーの古巣であるタリスマン支部にも存在し。

 記憶の改竄がなければユーリーも当然それを知っているはずだった。その作用も、大量摂取したときに引き起こされることも。


 ユーリーは何かを思い出したように深刻な顔つきになった。


「まずい。ケイシーがクスリを……」


「落ち着くんだ。そもそもクスリって何だ? そこから話してもらわなくてはな」


 と、マルセル。


「俺は多分落ち着いているぜ。こういうとき、ルナならどうするかなんてな」


「どこがだ……錯乱しているようにしか見えん」


 マルセルはユーリーを突き放すような口調で言った。


「マルセルの言う通りだ。ユーリー。お前、確実に疲れてるぞ」


 クリフォードは言う。


「あんたまで言うのかよ、クリフォード。じゃあ、どうしろって言うんだ」


 ユーリーは聞き返す。


「休むぞ。作戦が崩れた以上、これまでと同じ動きをすることもない」


「そうか……」


 休むことなど、ユーリーもマルセルも頭の片隅でさえ考えていなかたった。そんな中でクリフォードは差し迫った状況休むことを提案した。3人の中で、クリフォードだけが唯一冷静でいられたのだ。




 ――合ってるよ、ユーリー。俺は薬を使っている。継続時間を伸ばすために使っていたらこんな能力まで得てしまったんだよ。


 歩きながらケイシーは微笑んだ。

 これから、彼はユーリーのいう本拠――正確には本拠近くのある場所に向かう。ケイシーとしては殺さなければならない人物がいるのだから。そんな彼の近くに忍び寄る者が1人。運命を操り、試行していながらケイシーにも見落としていた者がいる。



「――タリスマンにはまだ裏切り者がいると思う」


 その言葉が吸血鬼の脳内で反響する。

 吸血鬼、ジェシー・インソムニアはルナティカの言う裏切り者を探していた。助けようとしたライオネルのいない今、彼を縛るのは彼自身のみだ。

 いつかやろうとしていたことは今やるべきだと考えながら地下道を歩いている。浮浪者やギャングの残党を見かけるが彼らに目をつけても得られるものはなかった。

 ジェシーは見かける者全てに声をかけていた。



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