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3 支部長の置き土産

 ケイシーが去った後、暫くその場を包み込む沈黙。特にユーリーは納得できていないものを抱えているようだ。


「お前とそいつの間に何があった」


 クリフォードは尋ねた。


「言えない」


 即答するユーリー。


「聞かれていることには答えろと言われなかったのか!」


 口をつぐむユーリーにむかってマルセルは怒鳴りつけた。その瞬間、ユーリーはびくりと震えた。虐待されていた子供がするように、彼は何かに怯えているようにも見える。

 ユーリーはマルセルの方を見た。


「いや……悪かった」


「……俺とケイシーとの間の出来事か。俺も正直よくわからん。が、恐らく殺すことは間違いない」


 マルセルが謝った直後に口を開いたユーリー。

 正気すらも危うい彼だったが、もうやろうとしていることは決まっているらしい。

 イデアは展開していないものの、その殺気は十分すぎる。マルセルやクリフォードを威圧するほどだったのだ。それは決意にも言い換えられるのかもしれない。


「いや、殺すよ。トロイもイザベラも、ジェラルドもケイシーも。俺とルナ以外のタリスマンの人間はな……」


 ――殺すと決めてしまえば心が楽だ。俺は多分、呪縛から抜け出した。怖いものなんてないだろうと思えてくる。やっぱり俺は殺す者なんだな。


 ユーリーの心が軽くなったのとは対称的にクリフォードは不安を拭えなかった。彼自身にもわからないが、胸騒ぎがする。

 そんなクリフォードをよそに、ユーリーは何かの気配に気付いたのか身を翻す。一行で真っ先にユーリーがその気配に気付いたのには理由があったのだ。なぜならば、それがユーリーにとって親よりも馴染みのあるものだから。

 彼はユーリーらの見えない場所でイデアを展開。鍵型の刃物をその手に持った。


「ジェラルド……追っていたのはケイシーか? 俺か?」


 ユーリーは言う。何年もジェラルドと共に過ごしたユーリーならばその気配はよく知っている。そして、その瞬間に現れるジェラルド。鍵の形をした得物を手にしてユーリーに斬りかかる。

 二人の武器がぶつかり合って響く金属音。


「ケイシー? こんなところにいたのかって?」


 ジェラルドはユーリーを馬鹿にしたような笑みを浮かべ、斧を振り払う。そんなジェラルドに向けてクロスボウを向けるマルセル。追い討ちをかけようとしたジェラルドに向かってボルトを放った。

 空気を切り裂くようにして飛ぶボルトがジェラルドの頬を薄く切り裂いた。


「外したか」


 マルセルは呟く。だが、彼の放った一矢はユーリーが立て直す隙を作ることとなる。

 ユーリーから注意がそれたジェラルド。その隙を見て、ユーリーは斧を持ち直して振るう。さすがのジェラルドにも対応できず――


「ちいっ!」


 ジェラルドの左腕――の半分が宙を舞う。一瞬にして彼の得物は消失し、今度は右腕に持ち変える。実体らしき実体を持たないためか、それは一瞬のこと。

 のけぞったジェラルドは右腕の得物を振るい、ユーリーの胸を狙う。直に心臓を抉り取るために。


 ユーリーの後方にいるのはクリフォードだった。アサルトライフルを構え、ジェラルドに狙いを定めていた。


「避けろよ! 味方殺しなんか死んでもやらねえからな!」


 クリフォードは叫ぶ。それが合図となり、ユーリーはジェラルドの攻撃をかわした。直後に響く銃声と放たれた銃弾。これで決着が着くのならそれでよかったのだろう。

 が、クリフォードは「しまった」と口に出しそうになっていた。銃弾は当たらない。ジェラルドはほくそ笑みながら壁に傷を入れる。あの扉ではない方だ。傷をいれただけで壁は開かれ――


「支部長の置き土産だぜ」


 ジェラルドの口から出たその言葉で、ユーリーは状況を理解した。


「逃げるぞ。地下じゃねえほうだ。ここでレヴァナントと戦うのはとんでもなくまずい」


 と、ユーリーは言って身を翻す。今はとにかく余裕がない。


「お前を信じるぞ」


 クリフォードはそう言ってユーリーのあとをついて行く。さらにマルセルも。その後ろから押し寄せるレヴァナントから逃げ切ろうとして。

 レヴァナントたちの後ろがわで静観するのはジェラルドだ。腕を切り落とされた痛みで表情は歪んでいるものの、彼は勝利を確信していた。ユーリーの能力でレヴァナントを一網打尽にすることもできるはずがないのだ。


「残念だったな、ユーリー。もうじきイザベラとケイシーがお前らを挟み撃ちにする」


 ジェラルドは呟いた。彼の中では完璧だということになっていたが、それは大きな誤算だった。彼があてにしている2人は、まだジェラルドに本性を見せていない――




 タリスマン支部の敷地内にいるケイシー。内部で起きていること――起こることがわかっていたことを確認してほくそ笑む。


「多分、俺の嘘は完璧だった。ジェラルドも何一つ疑わないでやってくれた。さて……」


 ――ここを切り抜けてあいつらがやったように偽装すれば俺の思う通りになる。また分岐点が来たのなら、そこで手を下す。


 近づいてくるレヴァナントの声とユーリーたちの気配。これもすべてケイシーの読み通りだった。ケイシーとユーリーは再び顔を合わせることになる。

 ケイシーの傍らで蠢くのは彼の能力の具現。



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