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1 エリュシオン

一度逃亡したユーリーは生ける屍・レヴァナントを討伐するために対策チームとしてタリスマンの町に戻ってきた。町に救うストリート・ギャングらを退けながら、ユーリーはとある秘密を知るルナティカと合流する。

彼女から聞かされたこと、トロイ・インコグニートの秘密。そしてユーリー達はすべての元凶トロイのいる場所に向かったのだ。

 地下へ向かわなくては。ユーリーたちは地下への入り口を発見すると階段を降りてゆく。足音だけが暗い空間に響く。

 クリフォードは時折周囲を見渡し、敵がいないかどうかを確かめる。


「もし敵が吸血鬼だったらどうする?」


 クリフォードは言う。


「……俺がそいつの首を落とす。7年前のあの人もそうやって吸血鬼に勝てたらしい」


 と、ユーリー。

 銃弾では吸血鬼を殺せないが、刃物なら殺せるかもしれない。可能性は低くとも、ユーリーは「それしかない」と考えていた。


「吸血鬼に勝つ方法はあるんだな?」


 クリフォードは確認しているようだった。

 2人はそのまま地下道を先に進む。


 ――やけに静かだ。タリスマンの住人が一人残らずレヴァナントにされたのなら納得できるが。いや、何が起きている?


 敵はいない。

 クリフォードはアサルトライフルを握りしめ、必要以上に警戒している。無理もないだろう。タリスマンはイデア使いが集い、死地と化しているに等しい場所だから。

 そんな中で、ユーリーらの進行方向からも足音がする。敵か、そうではない人か。あるいは――


「そこにいるのは誰だ!」


 声の主はマルセル。先に気付いたユーリーはここで警戒心を手放した。ほどなくして柱の陰からマルセルが現れる。


「俺……ユーリーだ。クリフォードもいる」


 と、ユーリーは言う。

 マルセルはクロスボウの先端に光の魔力を集め、ユーリーとクリフォードを照らし出す。その光で3人はそれぞれの顔を確認した。


「敵ではなかったんだな。いや、本拠の状況ならもう聞いている。裏切りがあったのか」


「らしいな。タリスマン支部とは違うみたいだが」


 タリスマンとは違うと聞いたマルセルは顔をしかめた。

 無理もない。ストリート・ギャングもプリズン・ギャングも敵ではないに等しい今、敵というべきはタリスマン支部の構成員。彼らが騒ぎの元凶でもあるのだから。


「敵は外にもいるということか。それで、ユーリー。なぜ俺と合流することになった?」


 マルセルは訊ねた。


「あんたにしか相手できねえやつがいる。いや、もしかしたらあんたを危険に晒してしまうかもしれねえ。戦うと決まったわけじゃねえが」


「それほどの相手……処刑人か?」


 処刑人――アリスのことだ。アリスも確かに一筋縄ではいかないような者だが、ユーリーの言う人物は彼女ではない。彼女以上に厄介で、首を落としても死なないような存在。吸血鬼などとは格が違うような――


「違うな」


 と、ユーリー。


「処刑人以外にもいるということか」


 マルセルもその敵のことに気付いたようだった。が、それだけで正体がわかるはずもない。なぜなら件の敵は存在さえ秘匿されているのだから。

 そして、秘匿された敵はタリスマン支部でも限られた者たちしか知らない。


「ああ。エリュシオン・インフェルノ。そいつが処刑人よりやばいやつだ。吸血鬼なんてもんじゃねえ、魔族ってやつだ」


「魔族……」


 マルセルは息を飲む。


 ――知っている。魔族は13年前にディサイドで暴れまわったやつらだ。話によると首を落としてもそれを拾って生きているような連中。相手できるのは相当限られてくる……!


 マルセルの脳裏に浮かんだのは鮮血の夜明団会長のシオンと吸血鬼ハンターでは最強ともうわさされるエレナ。あの2人なら、と考え、自分の実力が通用する敵だとは思えなかったのだ。


「タリスマンにはそんなのがいるのか。そいつは組織でも乗っ取っているのか?」


「違うな。存在も隠されるくらいだ。前に俺が見たときは両手を鎖で繋がれていた。囚人みたいだったよ。俺が奴隷だとすればあいつは囚人。多分、俺とエリュシオンは似ている」


 と、ユーリー。彼の言葉を聞き、マルセルは一瞬だったが目をそらす。


「胸糞悪い話だ。まず魔族を利用するところから気になることしかないが。いくぞ、ユーリー。タリスマンを攻め落とすにはそのエリュシオンをどうにかする必要がある」


 先を急ごうとするマルセル。彼の顔には焦りが滲み出していた。やはり、吸血鬼を超えた存在――魔族のことを聞いて気負っているらしい。光の魔法を使える自分がやらなければならないと。ここにゲオルドがいないのでなおさらだ。

 そのマルセルについてゆくユーリーと後ろから2人を追いかけるクリフォード。特にクリフォードは先を急ぐユーリーとマルセルに不安を覚えていた。


「ユーリー、マルセル。死に急ぐことは許さない」


 クリフォードは言った。


 ――そうだろ、マルセル。ゲオルドが死んでから、お前は以前にも増して危うくなった。目的のために命を捨ててもいいとさえ思ってるだろ。2人とも不安定すぎる。


 やがて地下道の壁が変わり、建物の一部にも見えるような壁の造りになってきた。いよいよタリスマン支部の地下、ということなのだろう。

 マルセルが先陣を切り、タリスマン支部に突入する。もちろん、トロイを討つためではなく秘匿されたタリスマンの戦力――模造の魔族エリュシオンに接触するため。


 通路から分岐した場所には鎖で閉じられた鉄の扉があった。

 ここが地下からの入り口。ユーリーも一度だけここに来たことがある。ついこの間まではその記憶さえも失っていたが、ユーリーはここから脱走しようとしたことがあるのだ。


「この扉からだったらタリスマン支部に行ける。何年も使われてねえみたいだが」


 ユーリーは言う。


「だろうな。いつからあるんだ?」


 と、マルセル。


「さあな。俺がここを使ったときには既に錆だらけだったよ。鎖はなかったけどな」


 ユーリーは扉に近づき、手を触れる。ざらざらとした扉の感触と冷たさがユーリーの手に伝わる。


 ――錆びちゃいるがボロボロじゃねえんだな。鎖を引きちぎった方が早いか。


 前にこの扉を開けたときとほとんど変わらない。使われていないとはいえ、ユーリーが見ていなかった数年で劣化することはないだろう。

 扉の状態を確認しながらユーリーは後ろを振り返る。


「これから能力の発動なしにイデアを展開する。この鎖を引きちぎれるかもしれねえ。いや、なんとかして鎖をぶっ壊す」


 鎖に触れたユーリーはイデアを展開。彼の周りには青い胞子のようなものが展開された。

 ユーリーは手に力を込め、鎖を左右に引く。すると、ところどころ錆びていた鎖は音を立てて引き裂かれた。

 これで扉を開けるだけになった。ユーリーの知る限りではこの扉につけられた鍵は南京錠と鎖だけ。ユーリーは黙って扉を押した。


「イデアがあればここまでできるのか」


 ユーリーの後ろでマルセルは言う。


 そんな中、扉は開いた。その扉からはタリスマン支部に続く道が伸びている。埃を被っているがここから続いていることは確かだ。


「行こうぜ。何もエリュシオンを敵に回すこともねえ」



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